学習塾・習いごと教室で社員採用時に必要な書類と試用期間の設定およびその際の通知書

2025年06月23日

オーナー・経営者向け

学習塾や習い事教室の運営において、優秀な人材の確保は事業成長の鍵を握ります。

しかし、社員採用は単に面接を行うだけでなく、法的に定められた手続きや書類の準備、適切な試用期間の設定など、多岐にわたる業務を伴います。特に近年、労働基準法などの法改正により、労働条件通知書に記載すべき項目が追加されるなど、採用担当者が押さえるべきポイントは増えています。

この記事では、学習塾・習い事教室が社員採用を行う際に必要な書類、試用期間の設定方法、そしてその際の通知書について、最新の法改正も踏まえて詳しく解説します。

1.社員採用時に必要な書類

社員を採用した際には、企業側・雇い主側が提出を求める書類があります。主に以下のものが挙げられます。これらの書類は、入社後の人事管理や社会保険・労働保険の手続きに不可欠なものです。

まず初めに「採用」前の面接時には、履歴書/職務経歴書を提出してもらっていますので、その際に不備があれば、追加の提出を依頼します。

例えば、

  • 卒業証明書・成績証明書: 特に新卒採用や第二新卒採用の場合に、最終学歴の確認のために提出を求めることがあります。大学や専門学校によっては発行に時間がかかる場合があるため、事前に応募者に案内しておくと良いでしょう。
  • 資格証明書(写し可): 指導する科目や内容に応じた資格(例:教員免許、英検、TOEIC、各種指導資格など)が必要な場合、その証明書の提出を求めます。原本照合を行うか、写しでも良いかを確認し、応募者に伝えます。

これらの学歴や資格を証明するものなどが挙げられます。

採用の通知をして初回出勤日を指定した日には、以下を用意してもらうようにしましょう。

  • 雇用保険被保険者証(前職がある場合): 前職を退職している場合、雇用保険の加入歴を確認するために必要となります。
  • 年金手帳または基礎年金番号通知書: 社会保険の手続きにおいて、基礎年金番号が必要となります。
  • 扶養控除等(異動)申告書: 所得税の計算に必要な書類で、入社後、最初に給与を支払う時までに提出を求めます。
  • マイナンバーカードの番号: 本人分と不要家族がいる場合には家族分のマイナンバーカード情報

これらの書類以外にも、会社によっては個人情報に関する同意書や、誓約書などを求めることがあります。業務状況に応じて書面で準備するようにしましょう。必要な書類については、事前にリストアップし、応募者に明確に伝えることが重要です。

※マイナンバーについて
マイナンバーによって複数の書類で管理されていた情報が一元管理できるようになりました。特に字医務手続きや社会保障などの手続きでは効率的で便利です。
ただし中にはその提出を拒むケースもあるかもしれません。
そのため、上記PDFはマイナンバーだけではなく、必要な番号も提示いただくようにしています。


さて、続いては試用期間についてです。
面接やその後のやり取りから初回の出勤、そしてその後フルタイム勤務への移行があるのですが、採用者にとって、会社にとって、事業主にとって、

面接時では見抜けなかった「何か」があるかもしれないというリスクはいつも付きまといます。

トラブルが発生したら、それは雇用主がすべて悪いのだという考えには賛同しかねる事態というものも実際にはあるでしょう。

ここでは、少しでも雇用後のリスクを低減させるための一つの方法として、「試用期間を設ける」という部分に焦点を当てています。

2.試用期間の設定と目的

試用期間とは、企業が採用した労働者の能力や適性、勤務態度などを総合的に評価し、本採用とするか否かを判断するために設けられる期間です。多くの企業が導入しており、学習塾・習い事教室においても例外ではありませんし、導入したほうが良いでしょう。

2−1.試用期間の法的性質

少しだけ難しい話になりますが、試用期間中の労働契約は、一般的に「解約権留保付労働契約」と解釈されるのです。

これは、企業や事業主が試用期間中に労働者の業務に対しての適性を判断する期間を設けた契約をするという意味です。

もし、

適格でないと判断した場合には、将来に向かって労働契約を解除する権利(解約権)を留保している、という考え方ということになります。

2−2.試用期間の期間設定

試用期間に明確な法的制限はありませんが、一般的には1ヶ月から6ヶ月程度が一般的です。塾や教室の業務内容によっては、より長期間(例:1年間)設定することもありますが、そこまで長い設定はオススメいたしません。

あまりにも長期間にわたる試用期間は、労働者の身分を不安定にさせてしまうからです。
労働者にも生きていくため、勤務するための権利を有しています。採用される逆の立場にたってみれば、1年間というのは相当長い期間だと感じることでしょう。
期間が長い場合には、労働者の権利を不当に侵害する可能性があるとして、裁判所で無効と判断されるリスクがあるため注意が必要です。

期間を設定する際は、その期間で本当に労働者の適性を判断できるのかを考慮し、合理的な期間を設定することが求められます。

2−3.試用期間中の解雇・雇い止め

試用期間中であっても、企業は労働者を自由に解雇できるわけではありません。

まずこの日本では「解雇」という部分については、そうそう日常的に起こるべきではないという慣習めいたものもありますし、よほどの事態がある場合を除いて、あまり発動すべきではありません。

試用期間中の解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合にのみ許されます。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。

  • 著しい能力不足で、改善の見込みがない
  • 勤務態度が著しく不良で、指導しても改善しない
  • 重大な規律違反があった

また、試用期間開始から14日を超えて勤務している労働者を解雇する場合には、原則として30日以上前の解雇予告、または30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要です。

14日以内の期間であれば、解雇予告手当なしで解雇することが可能ですが、あくまで正当な理由がある場合に限られます。

試用期間満了時に本採用としない(雇い止め)場合も、解雇と同様に合理的な理由が求められます。

特に、試用期間の更新を重ねて雇用している場合や、長期間の試用期間を設定している場合は、通常の解雇と同様の厳格な要件が課される傾向にあります。(※この点は注意しましょう)

3.試用期間中の通知書および労働条件通知書

社員を採用する際、企業は労働者に対し、労働条件を明示する義務があります(労働基準法第15条)。これは、試用期間中であっても同様です。労働条件の明示は、原則として書面で行う必要があり、これを「労働条件通知書」と呼びます。

3−1.労働条件通知書に記載すべき事項(法改正含む)

労働条件通知書に記載すべき項目は、労働基準法施行規則によって細かく定められています。特に、近年(2024年4月1日施行)の法改正により、以下の項目が追加で明示義務化されました。

【絶対的明示事項(書面交付が必須)】

  1. 労働契約の期間に関する事項
    • 期間の定めの有無、有期契約の場合は契約期間
    • ※2024年4月1日追加:更新上限の有無と内容(有期契約労働者のみ)
      • 有期労働契約を更新する場合がある旨を明示する際に、更新回数や期間に上限がある場合はその内容を記載します。
    • ※2024年4月1日追加:通算契約期間または有期労働契約の更新回数の上限の有無(有期契約労働者のみ)
      • 無期転換申込権が発生する通算契約期間や、更新回数の上限がある場合はその旨を記載します。
  2. 就業の場所および従事すべき業務に関する事項
    • 就業する場所(例:〇〇教室)
    • 従事すべき業務の内容(例:小・中学生の英語指導、生徒管理、保護者対応など)
    • ※2024年4月1日追加:変更の範囲(就業の場所・業務)
      • 将来的に配置転換などにより就業場所や業務内容が変更される可能性がある場合、その変更の範囲を記載します。(例:会社の定める場所、会社の指示する業務)
  3. 始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
    • 具体的な勤務時間、休憩時間、週休日、祝日、年末年始休暇などの特別休暇
  4. 賃金に関する事項
    • 賃金の決定、計算および支払いの方法
    • 賃金の締切りおよび支払いの時期
    • 昇給に関する事項
  5. 退職に関する事項
    • 解雇の事由を含む

【相対的明示事項(定めがある場合に書面交付または口頭でも可)】

  1. 昇給に関する事項
  2. 退職手当に関する事項
  3. 臨時に支払われる賃金等に関する事項
  4. 賞与に関する事項
  5. 最低賃金額に関する事項
  6. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  7. 安全および衛生に関する事項
  8. 職業訓練に関する事項
  9. 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
  10. 表彰および制裁に関する事項
  11. 休職に関する事項

3−2.試用期間中の通知書

試用期間中の労働者に対し、労働条件通知書を交付する際は、試用期間である旨とその期間を明確に記載する必要があります。

(例) 「本契約は、〇年〇月〇日から〇年〇月〇日までの3ヶ月間を試用期間とします。試用期間中、貴殿の能力、適性、勤務態度等を総合的に評価し、本採用の可否を決定します。」

また、試用期間中の労働条件が本採用後と異なる場合(例:給与額が異なる、手当が支給されないなど)は、その旨も明確に記載しなければなりません。

【実例】
それでは、ここで弊社が使っている試用期間の雇用通知書(労働条件通知書)のサンプルを提示します。


この試用期間における雇用通知書(労働条件通知書)の内容と本採用とする場合には、通常は条件が異なることが多いです。
そのため、本採用時には別個、通知書を準備します。

こういう通知書や雇用契約書の類を忘れてしまった、馴れ合いになって作成していない・・・ということは、最初からリスクを抱え込むようなものですので、
必ず作成して、正規の手順で対応したほうが良いです。

3−3.試用期間満了時の通知書

最初から月給制度で、正社員登用を目的とするような形式であれば、試用期間が満了し、本採用とする場合は、特に改めて通知書を交付する必要はありません。労働条件通知書に「試用期間満了後、本採用とする」旨が記載されていれば、それが継続します。
これは「試用期間中」と「試用期間後」の労働条件が全く同じ場合に「のみ」有効です。

労働条件が少しでも異なる場合には、新たに新しい雇用通知書兼雇用契約書(労働条件通知書兼雇用契約書)を作成するようにしてください。

そして、

試用期間満了時に本採用としない(雇い止め)場合は、その旨を労働者に通知する必要があります。この通知も、客観的・合理的な理由が必要であり、一方的な都合での雇い止めはトラブルの原因となります。雇い止めを行う場合は、その理由を具体的に明示し、労働者が納得できるような説明責任を果たすことが重要です。

【実例】

会社、事業を守るという観点で、経営者から見て、または一般的な見地から適性に問題があると判断した場合、「解雇」と「雇い止め」は、労働基準監督署からの見方も全く違うということを覚えておいてください。

本サイトで、数回にわたり労務管理について重要なことを述べて参りますが、「解雇」というのは、やり方を間違えてしまうとその後のトラブルの火種となるケースもあるのです。

以下は、雇い止め実例です。(弊社は解雇をしたことがありません)

東京の教室を運営していたときに、試用期間中の業務で居眠りが発覚した事案がありました。それは1回だけでなく2回でした。その2回とも通りから視認することができ、机に突っ伏すような感じでの居眠りでした。

人間だれしも睡魔に抗うことはかなり至難であることはわかっています。しかしながら、社会人として勤務がスタートする以上、やはり外の顧客をないがしろにする行為はよくありません。教室の机で堂々と寝るのは、まさに顧客無視の行動でした。

そのことを伝え、本人納得の上で雇い止めとした事例です。
数学的スキルが相当高かっただけに残念ではありましたが、大所高所からの判断でした。

4.まとめ

学習塾や習い事教室が社員を採用する際には、適切な書類の準備、試用期間の設定、そして労働条件通知書の正確な作成が不可欠です。
特に、2024年4月1日の労働基準法施行規則改正により、労働条件通知書に記載すべき項目が追加された点は、採用担当者が最新の情報を把握し、法令遵守を徹底する必要があります。

試用期間は、企業と労働者双方にとって、相互理解を深めるための重要な期間です。試用期間を適切に運用することで、ミスマッチを防ぎ、長期的に活躍できる人材の確保に繋がります。万が一、試用期間中に問題が発生した場合でも、法的な要件を満たした上で適切に対応することで、労使間のトラブルを未然に防ぎ、健全な組織運営を実現することができるでしょう。

採用活動を進めるにあたっては、常に最新の労働法規を確認し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めします。適切な採用プロセスを通じて、学習塾・習い事教室のさらなる発展に貢献できることを願っています。

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