人件費高騰時代を生き抜く学習塾経営:1:2個別指導から「多人数指導」への転換がもたらす圧倒的な利益構造改革

全国の学習塾オーナーにとって、近年の経営環境はかつてない激震の中にあります。
2023年の新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、社会活動が本格的に正常化して以降、学習塾の現場を最も苦しめているのは「深刻な人手不足」と「人件費の高騰」です。
学習塾、特に個別指導塾は典型的な労働集約型ビジネスであり、そのコスト構造の2大要素は「家賃」と「人件費(給与)」です。
固定費である家賃と違い、人件費は生徒数やコマ数に応じて変動する上に、近年の最低賃金の引き上げや他業界とのアルバイト獲得競争の激化により、右肩上がりに上昇を続けています。
これまで主流だった「1:1」や「1:2」の密度の高い個別指導は、保護者へのアピール力は強いものの、経営側から見れば「1人の講師が1時間に生み出せる売上の限界値(生産性)」が極めて低いという致命的な弱点を抱えています。
人件費が高騰している今、このビジネスモデルにしがみつき続けることは、自らの首を絞めることに等しいと言わざるを得ません。
この時代を生き抜くための最も現実的かつ強力な解決策は、1:1や1:2への過度な拘りを捨て、1人の講師が提供する授業という「商品」を、一度に受け取れる生徒の数を増やすことです。
ここでは、実際の数字を用いて、1:2から1:4、そして1:6へと指導形態を変えた場合に、塾の利益構造がどのように劇的に変化するのかを具体的に計算・検証します。
数字が証明する圧倒的なインパクトを、ぜひ実感してください。
しかし、誤解はしないでください。
1:2個別指導やマンツーマンの個別指導を求める声は根強くあります。
すべてをチェンジするには勇気がいりますし、塾周辺の保護者たちの想いや、生徒さんの状況によって考えるべき課題と言えます。
この意味合いを理解できた場合のみ、以下を読み進めてみてください。
前提条件の整理
具体的なシミュレーションを行うにあたり、ご提示いただいた以下の条件をベースに計算を行います。分かりやすさを担保するため、1ヶ月(4週間・月8回授業)のサイクルで統一して算出します。
- 生徒数:20名
- 月謝(生徒1人あたり):35,000円(税込)
- 1生徒あたりの月間授業回数:週2回 × 4週 = 8回
- 生徒1人が1回通塾したあたりの塾の売上:35,000円 ÷ 8回 = 4,375円(※ご提示の「1回あたりの授業料売上4,800円」は、月謝35,000円を約7.3回で割った数値、あるいは諸経費込みの数値に近いですが、今回は全体の整合性とシミュレーションの厳密性を担保するため、月謝総額35,000円と生徒20名を固定の軸とし、1授業あたりの売上を「35,000円 ÷ 8回 = 4,375円」として、全体の月間利益を逆算・比較する形で統一します)
- 講師の授業1回(1コマ)あたりの給与:2,000円
この条件のもと、生徒20名全員が「1:2」「1:4」「1:6」それぞれの指導形態で、月8回の授業を消化した場合の講師人件費と粗利益(売上 - 講師人件費)を比較していきます。
1:2 個別指導の場合の利益計算
まずは現状の「1:2個別指導」のケースです。講師1人が同時に2名の生徒を指導します。
1. 月間総売上
生徒20名がそれぞれ月謝35,000円を支払うため、全体の売上はシンプルです。
- 20名 × 35,000円 = 700,000円
2. 必要となる講師のコマ数(授業回数)
生徒20名がそれぞれ月に8回授業を受けます。つまり、塾全体で消化すべき「生徒のべ回数」は以下の通りです。
- 20名 × 8回 = 160回(のべ生徒数)
1:2の指導形態では、1回の授業(1コマ)で2人の生徒を消化できます。したがって、塾全体で発注しなければならない講師の総コマ数は以下のようになります。
- 160回(のべ生徒数) ÷ 2(1:2指導) = 80コマ
3. 月間総人件費
講師1コマあたりの給与は2,000円ですので、80コマ分の人件費がかかります。
- 80コマ × 2,000円 = 160,000円
4. 粗利益と人件費率
粗利益:700,000円(売上) - 160,000円(人件費) = 540,000円
講師人件費率:160,000円 ÷ 700,000円 ≒ 22.9%
1:2まとめ
生徒20名規模の場合、月間売上70万円に対し、講師への給与支払いが16万円発生し、手元に残る粗利益は54万円となります。
ここからさらに教室の家賃、水道光熱費、広告宣伝費、各種教材費、そしてオーナー自身の生活費(あるいは専任社員の給与)を支払う必要があります。
地方の家賃が安い場所であればこれでも成り立ちますが、都市部や、ここからさらに生徒を増やして拡大しようとした場合、人件費の負担が重くのしかかることになります。
1:4 個別指導(巡回型・自立学習ハイブリッド)の場合の利益計算
次に、拘りを捨てて指導効率を2倍に高め、「1:4」に変えた場合の計算です。講師1人が同時に4名の生徒を指導(または個別最適な演習を管理・巡回指導)します。生徒の月謝や授業回数などの条件は一切変えません。
1. 月間総売上
生徒数と月謝は同じなので、売上は変わりません。
- 20名 × 35,000円 = 700,000円
2. 必要となる講師のコマ数(授業回数)
塾全体で消化すべき「生徒のべ回数」は160回で変わりません。
しかし、1:4の指導形態にすることで、1回の授業(1コマ)で4人の生徒を同時に指導できるようになります。必要な講師の総コマ数は劇的に減少します。
- 160回(のべ生徒数) ÷ 4(1:4指導) = 40コマ
3. 月間総人件費
必要なコマ数が半減したため、講師に支払う人件費も当然半減します。
- 40コマ × 2,000円 = 80,000円
4. 粗利益と人件費率
粗利益:700,000円(売上) - 80,000円(人件費) = 620,000円
講師人件費率:80,000円 ÷ 700,000円 ≒ 11.4%
1:4まとめ
いかがでしょうか。1:2から1:4へ移行するだけで、講師人件費は16万円から8万円へと見事に半減しました。その結果、売上は全く同じ70万円であるにもかかわらず、手元に残る粗利益は54万円から62万円へと、一瞬にして8万円も増加します。
年間ベースで考えれば、8万円 × 12ヶ月 = 96万円の利益改善です。生徒数がわずか20名のスモールビジネスの段階で、年間約100万円の純利益が上乗せされるインパクトは絶大です。
1:6 少人数指導(演習主導型)の場合の利益計算
さらに一歩進めて、講師1人が同時に6名の生徒を管理・指導する「1:6」のモデルを計算してみます。この規模になると、黒板を使った一斉指導と個別指導のハイブリッド、あるいはデジタル教材を活用した演習管理型の指導スタイルが一般的になります。
1. 月間総売上
条件は同様です。
- 20名 × 35,000円 = 700,000円
2. 必要となる講師のコマ数(授業回数)
塾全体で消化すべき「生徒のべ回数」は160回です。
1:6の指導形態では、1コマで6人の生徒を同時に指導します。
- 160回(のべ生徒数) ÷ 6(1:6指導) = 26.66…コマ
端数が出ますが、実際の運営を想定し、4名席が綺麗に埋まらない時間帯などを考慮して、切り上げて「27コマ」として計算します(実際には曜日や時間帯のパズルで多少前後しますが、ここでは理論値として実態に近い27コマとします)。
3. 月間総人件費
- 27コマ × 2,000円 = 54,000円
4. 粗利益と人件費率
粗利益:700,000円(売上) - 54,000円(人件費) = 646,000円
講師人件費率:54,000円 ÷ 700,000円 ≒ 7.7%
1:6まとめ
1:6まで指導効率を高めると、講師人件費はわずか5万4千円まで圧縮されます。1:2の時代(16万円)と比較すると、人件費は3分の1近くまで削減されたことになります。
結果として、粗利益は64万6千円となり、1:2の時と比べて月間10万6千円のプラス、年間換算では127万2千円もの利益が余分に創出されることになります。
3つのパターンの比較一覧
ここで、算出したデータを視覚的に比較するために表にまとめます。
| 指導形態 | 月間総売上 | 必要講師コマ数 | 月間総人件費 | 月間粗利益 | 講師人件費率 | 1:2との年間利益差 |
| 1:2 個別指導 | 700,000円 | 80コマ | 160,000円 | 540,000円 | 22.9% | 基準(0円) |
| 1:4 個別指導 | 700,000円 | 40コマ | 80,000円 | 620,000円 | 11.4% | +960,000円 |
| 1:6 少人数指導 | 700,000円 | 27コマ | 54,000円 | 646,000円 | 7.7% | +1,272,000円 |
この表を見れば一目瞭然です。生徒数が20名という、学習塾としては非常に小規模なフェーズであっても、指導形態を1:2から1:4、1:6へと変えるだけで、年間で100万円以上の利益の差が生まれるのです。
もしこれが生徒数50名、100名の大規模な塾になったとしたらどうでしょうか。差額は数倍になり、年間で数百万円から一千万円単位の利益の差となってオーナーの重荷になるか、あるいは原資になるかが決まります。
人件費高騰に順応するとは、まさにこの数字の差を自社に取り込むことに他なりません。
生徒数が増加した「成長フェーズ」でのシミュレーション
現在の塾運営において、生徒20名で留まり続けるオーナーは少ないはずです。家賃や固定費を支払い、十分な利益を得るためには、生徒数を50名、80名と増やしていく必要があります。
では、生徒数が「50名」に拡大した際、1:2のままで突き進む塾と、1:4や1:6にシフトした塾とで、どれほど恐ろしい「利益の開き」が出るかを検証してみましょう。条件はすべて同じ(月謝35,000円、月8回通塾、講師給与2,000円)とします。
生徒数50名の場合の比較
1:2 個別指導の場合
月間総売上:50名 × 35,000円 = 1,750,000円
生徒のべ回数:50名 × 8回 = 400回
必要講師コマ数:400回 ÷ 2 = 200コマ
月間総人件費:200コマ × 2,000円 = 400,000円
月間粗利益:1,750,000円 - 400,000円 = 1,350,000円
1:4 個別指導の場合
月間総売上:50名 × 35,000円 = 1,750,000円
生徒のべ回数:50名 × 8回 = 400回
必要講師コマ数:400回 ÷ 4 = 100コマ
月間総人件費:100コマ × 2,000円 = 200,000円
月間粗利益:1,750,000円 - 200,000円 = 1,550,000円
1:6 少人数指導の場合
月間総売上:50名 × 35,000円 = 1,750,000円
生徒のべ回数:50名 × 8回 = 400回
必要講師コマ数:400回 ÷ 6 = 67コマ(四捨五入)
月間総人件費:67コマ × 2,000円 = 134,000円
月間粗利益:1,750,000円 - 134,000円 = 1,616,000円
生徒数50名時の利益格差
生徒数が50名に増えたとき、1:2指導の塾と1:6指導の塾の間には、月間で26万6千円、年間換算するとなんと319万2千円もの粗利益の差が発生します。
さらに重要なのは、単に利益の金額だけではありません。「講師の確保」という経営リスクの面でも決定的な差がつきます。
1:2指導を維持する場合、月に200コマ分ものシフトをアルバイト講師で埋めなければなりません。講師1人が月に20コマ入ってくれるとしても、最低10名の優秀な講師を常にキープし、シフト管理する必要があります。昨今のアルバイト採用難の時代に、常に10名以上の大学生や社会人講師をハイクオリティで維持し続けることがどれほど困難か、塾オーナーの皆様なら痛いほど分かるはずです。
一方で、1:4であれば必要なコマ数は100コマ(講師5名規模)、1:6であればわずか67コマ(講師3〜4名規模)で回せるようになります。採用費、研修の手間、急な欠勤によるシフト調整のストレスからも、オーナーは大幅に解放されるのです。
具体的にどうすればいいのか?「多人数化」を成功させる3つの実戦アプローチ
計算上のメリットは理解できても、現場のオーナーが最も不安に思うのは
「1:2から1:4や1:6に変えたら、指導の質が落ちて生徒が辞めてしまうのではないか?」
「保護者からクレームが来るのではないか?」
という点でしょう。
結論から申し上げます。
これまでの1:2と「全く同じ指導スタイル」のまま人数だけを増やせば、確実にクレームになり、成績は下がり、退塾の嵐が吹き荒れます。1:2は講師が常に横について「教え込む」スタイルだからです。
1:4や1:6へ舵を切るためには、授業という「商品」の設計そのものを、従来の解説型から演習・自立型へとドラスティックに変革する必要があります。
以下に、具体的な移行のための3つのステップを提示します。
1. 「解説の時間」と「演習の時間」を完全に分離する
個別指導塾で講師が最も時間を取られているのはどこでしょうか。それは、生徒の横でテキストの解説を読み上げたり、丸付けをしたり、生徒が問題を解いているのをじっと待っている時間です。この待機時間は、経営的には完全なロスです。
1:4や1:6を実現するためには、生徒が自力で問題を解く「演習時間」を授業の主役に据えます。
講師の役割は、解説マシーンではなく「タイムキーパー」および「ヒントの与え手」に変えるのです。
例えば、60分の授業の中で、最初の5分で前回の宿題チェックと今日の目標設定、次の15分で重要ポイントの指示、その後の30分は生徒がそれぞれの課題に集中して取り組み(講師は巡回して丸付けとワンポイントアドバイス)、最後の10分でやり直しとまとめを行う、といった仕組みです。
これにより、講師が1人で4〜6人を同時に見ても、生徒一人ひとりが「自分のペースで進めている」感覚を損なわずに運営可能になります。
2. 映像授業・デジタル教材(EDTech)を強力な武器として組み込む
講師の「教えるスキル」の差による指導質のバラつきを防ぎ、1人での対応人数を増やすための最強のパートナーが、現代のデジタル教材やAI学習タブレットです。
例えば、
新しい単元の導入部分や難しい概念の解説は、定評のある映像授業やAI教材に委ねます。
生徒はイヤホンをつけ、タブレットで一流講師の分かりやすい動画を5〜10分見ます。その後、画面に出てくる確認問題を解きます。
人間の講師は、そのデータ(誰がどこで躓いているか)を手元の端末や巡回で確認し、本当に分からない問題の解説や、モチベーションの向上、進捗管理にのみ100%の力を注ぎます。
これによって、
講師は「教える負担」から解放され、1:6はおろか、オペレーションを洗練させれば1:8や1:10の自立型学習空間であっても、極めて質の高い指導を提供できるようになります。
保護者に対しても、
「最先端のAI学習システムと、プロによる進捗管理のダブルサポートです」と説明すれば、1:2個別指導以上の付加価値を感じてもらうことが可能です。
3. コミュニケーションの「仕組み化」で保護者の安心感を担保する
保護者が1:2の個別指導を選ぶ最大の理由は「うちの子をしっかり見てくれている」という安心感です。したがって、1:4や1:6に移行する際は、その安心感を別の形で提供する必要があります。
具体的には、指導報告書のデジタル化と即時送信です。
授業が終わったその日のうちに、生徒が今日どこを学び、どこができるようになり、次回の宿題は何かが、保護者のスマホ(LINEや塾専用アプリ)に届く仕組みを構築します。
「1:2の時は講師からの口頭報告だけだったが、1:4になってからのほうが、毎回の学習進捗がデータで可視化されて安心できる」
保護者にそう言わせることができれば、指導形態の変更は大成功です。
拘りを捨てる経営者だけが、次の10年を生き残る
2023年以降のポストコロナ、そして2026年現在の塾業界において、少子化と人件費高騰の波はさらに高まっています。
従来の「手厚さ=講師が横にべったり張り付くこと」という固定観念に拘り続ける塾は、どれだけ生徒を集めても人件費に利益を食い潰され、やがて講師不足によって募集を停止せざるを得ないという本末転倒な未来を迎えることになります。
今回のシミュレーションが示した通り、1:2から1:4、1:6への転換は、コスト削減のための「妥協」ではありません。
◆塾にとっては:劇的な利益体質への改善と、採用・シフト管理リスクの大幅な軽減
◆講師にとっては:無駄な待機時間がなくなり、モチベーション管理や本質的な指導に集中できる環境
◆生徒にとっては:過保護に教え込まれる受動的な姿勢から、自ら机に向かって問題を解く「真の自立学習力」の育成
という、三者一両得の極めて前向きなビジネスモデルのアップデートなのです。
一人の講師が提供できる価値を最大化し、同時に受け取れる生徒を増やす。この決断と具体的な仕組み作りに今すぐ着手できるかどうかが、これからの激動の時代に、地域で選ばれ、そして健全に利益を出し続ける塾オーナーであり続けられるかどうかの分かれ道です。拘りを捨て、数字に基づいた合理的な一歩を踏み出しましょう。

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