学習塾の譲渡:ベストな時期はいつ? 成功のためのタイミング戦略

2025年07月08日

譲渡

学習塾のオーナーにとって、これまで心血を注いできた事業を次世代に引き継ぐ「譲渡」は、いろいろな気持ちが混ざってしまうぐらい揺れる選択ではあります。

しかし、その先の未来を前向きに考えて、決心したことを今度は丁寧に進めていかなくてはなりません。

「この塾を売ろうか・・・」

そう思ったときには、まずは計画を立てていきましょう。計画の一歩は「時期」です。いつ売却や引継ぎを完了させたいのか、その時期から逆算して様々な準備を進行していく必要があります。

とは言え、

いつ、どのようなタイミングで譲渡を進めるのが最適なのか、悩まれている方も多いのではないでしょうか。

一般的には「年度末や年度の切り替わりが良い」と言われますが、果たしてそれが本当にベストな選択かどうかは、昨今の事情から感が見えて最適とは言えない部分、または結果最適だったと言える部分があります。

この記事では、一般的なセオリーにとらわれず、学習塾の譲渡を成功に導くための多角的な視点から、そのタイミングについて深く掘り下げていきます。


学習塾譲渡の時期は年度末がベスト?年度末は一番案件が出やすく、一番値段が下がりやすい

「年度末・年度初め」が必ずしもベストではない理由

多くの事業承継において、年度末である3月や、新年度が始まる4月は、引き継ぎがしやすい時期として認識されています。

これは学習塾においても例外ではなく、例えば3月に現オーナーが引退し、4月から新オーナーが運営を開始するといったケースは少なくありません。時期的な区切り、気持ち的な区切りとして年度の切り替え時期は、世の中もそんな動きが活発になることから、一般的には良い時期と言われます。

生徒の学年が切り替わるタイミングであり、新しいカリキュラムやクラス編成に合わせやすいため、一見すると非常にスムーズな移行に思えるのです。

しかし、この時期の譲渡には、見過ごされがちな大きなデメリットが存在します。それは、往々にして譲渡価格が低くなる傾向があるということです。

なぜでしょうか?

価格面と多忙さと様々な切り替わり

まず、年度末から年度初めにかけては、他の塾でも同様に譲渡を検討するケースが増えるため、市場に売り物件が増加する傾向にあります。

単純に考えると、案件が多くなるということは、買い手側にとっては選択肢が増えることを意味し、結果として価格競争が起こりにくく、売り手側が強気の価格交渉をしにくい状況を生み出します。

次に、この時期は学習塾にとって売上が不安定になりやすい時期でもあります。例えば、受験を終えた卒業生が抜ける一方で、新入生の募集が本格化する前段階であり、一時的に生徒数が減少したり、入塾への迷いが生じやすい時期でもあります。買い手側は、譲渡後の売上予測を立てる際に、この一時的な減少を懸念材料と捉え、慎重な姿勢を見せる傾向があります。

これは学習塾の宿命でもあります。

例えば学習塾の契約を年度末までの自動更新にしていたとしても、保護者からすれば「受験の終わり」を一区切りにしたい気持ちになります。
それまで、春、夏、冬とともに闘ってきた生徒たちも、受験疲れで「いったんは休みたい」という気持ちになるため、親子の気持ちが合致しやすいです。

その際の退塾申請は、高校3年生の場合は、総合型選抜、学校推薦型、公募推薦型入試のそれぞれで合格がほぼ確定していく時期として11月、12月、1月には退塾の申し入れが入りやすくなります。退塾の申し入れがなくても塾によっては1月末まで、または2月末までを在籍期間としているところも多いです。
高卒生を除けば、最終在籍年は高校3年生だからです。

つづいて、高校受験を終えた中学3年生の場合、「高校継続」もありますが、全国的に見ても高校1年生の通塾率はその前後の中3,高2と比較してもけっこう低いです。
やはり一段落としての退塾が増加し、こちらは2月末、3月末で終了というパターンが多いです。

そして中学受験。こちらは合否によってのモティベーションの違いがあります。合格をしたら継続の可能性が高く、不合格の場合は確率高く退塾します。合格すれば、いったん学校になれるまでという形で塾を離れたとしてもまた戻ってきてくれる可能性が高くなります。


中学受験という過酷な戦いを続けていき、保護者は最後の最後までわが子の合格を信じて親子で頑張るのが中学受験です。
不合格の場合には、一気に気持ちがダウンしますので、継続はまずありません。

もちろん10月から年度末まで新規で入塾してくる生徒さんもいますが、退塾生徒を超える新規入塾にするためには相当な広告コストをかけていき、相当なアプローチが必要ですので、自然的に考えると生徒数は減少していきます。

価格という面でいうと、生徒数の減少はマイナス要素になる

これは当然ですが、交渉自体が一週間で終わるケースもあるものの、数か月かかるケースもあります。交渉をしている中で、生徒数の減少などの負の内容があれば、初期の譲渡金額算定の変更が余儀なくされるケースもあるのです。
それが一番時期的に起こりやすいのが、年度末です。


さらに、年度の切り替わりは、塾の運営において最も忙しい時期の一つです。現オーナーは、在籍生徒の進級手続き、新年度のカリキュラム作成、新入生募集活動、講師の採用・育成など、多岐にわたる業務に追われています。

このような状況下で譲渡交渉や引き継ぎ作業を並行して進めることは、オーナー自身の負担を増大させるだけでなく、譲渡の準備が不十分になり、結果として買い手からの評価を下げてしまうリスクがあります。

譲渡に際して必要な財務資料の整理や契約書の準備なども、忙しい時期には後回しにされがちです。

これらの要因から、年度末・年度初めは「引き継ぎやすい」という表面的な利点がある一方で、適正な譲渡価格を実現しにくいという側面があることを理解しておく必要があります。


譲渡価格を最大化するためのタイミング戦略

では、学習塾の譲渡において、最も理想的なタイミングとはいつなのでしょうか?

それは、一概に「この時期」と断言できるものではなく、塾の状況、地域性、オーナー様の譲渡理由など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。

しかし、譲渡価格を最大化するという視点に立つと、いくつかの共通する戦略が見えてきます。

1. 新規生徒獲得に成功している「波に乗っている時期」

学習塾の価値を最も明確に示す指標の一つは、生徒数の増加傾向と安定した売上です。

特に、新年度や新学期が始まり、新規生徒の獲得に成功している時期は、塾の将来性を最も魅力的にアピールできるチャンスです。例えば、夏期講習や冬期講習で新規生徒が大幅に増え、そのまま正規生として定着しているような時期は、買い手にとって非常に魅力的に映ります。

この時期は、塾の勢いがあり、成長しているというポジティブなイメージを抱かせやすいため、強気の価格交渉がしやすくなります。

具体的には、新年度が落ち着き、新規生徒の定着が見えてくる5月~7月頃、または受験シーズンが本格化する直前で、入塾希望者が増える9月~11月頃が挙げられます。

これらの時期は、塾の売上が安定し、なおかつ将来的な成長も期待できるため、買い手側も前向きに検討しやすいでしょう。

2. 特色あるサービスやカリキュラムが軌道に乗っている時期

他塾との差別化を図るための特別なカリキュラム、地域に特化した指導ノウハウ、あるいは特定の入試に強い実績など、貴塾の強みが明確になり、それが成果として表れている時期も、譲渡の好機と言えます。

例えば、プログラミング教育を導入して成功している、独自の学習メソッドが生徒の成績向上に貢献している、難関校への合格者を多数輩出しているなど、具体的な実績を示すことができる時期は、買い手に対して「この塾には、他にはない価値がある」という強い印象を与えることができます。

このような時期は、漠然とした「良い塾」というイメージではなく、具体的な「強み」を提示できるため、それが譲渡価格に反映されやすくなります。特に、その強みが将来的な収益性にも繋がることを明確に示せれば、さらに高い評価を得られる可能性が高まります。


【実例(実話)】

それではまた実例実話をお送りします。

上記で「プログラミング教育」のくだりがありましたが、譲渡時にこれが成功した実例です。通常の個別指導塾でありながら、プラグラミングを導入していた教室なのですが、買い手の値引き攻勢がけっこう大きかったです。

譲渡主のオーナーは、急募的に買い手を探していましたので、値段を下げることを考えていましたが、ちょうどタイミングよく、しかも交渉の最中で、プログラミングについての問い合わせが2件立て続けに入ったのです。

この教室は、土地柄もあったのでしょうか。または小学生が比較的多く、学習意欲がたかめのお子さんが在籍していました。通常の算数とか国語に加えてプログラミングを習うなどの需要もあり、コースとして独自に構成したものが保護者にも受け入れられていました。

実際の生徒数も過半数がプログラミングの生徒でしたので、これが売りであることは間違いありませんでした。
この2件問合せもどちらも契約となり合意契約に至る前でしたので譲渡主のオーナーも、「これ以上は譲渡金額を下げない」という意志を固めたようです。

実際に問合せと契約を目の当たりにみた買い手候補の方はその日から一気に「早く買いたい」という気持ちに変わり値下げなしで決定したという事例です。

3. 設備投資やリフォームが完了し、環境が整った時期

学習環境の改善は、生徒の満足度を高めるだけでなく、買い手にとっても魅力的な要素となります。老朽化した設備を一新したり、内装をリフォームしたりして、清潔で快適な学習空間が整った時期は、塾の資産価値を高め、買い手の初期投資負担を軽減できるため、譲渡交渉において有利に働くことがあります。

ただし、リフォームにはお金もかかりますし、その投資効果がまだ売上に反映されていない段階では、買い手がその価値を十分に評価できない可能性もあります。

リフォームをしたから価格を上乗せしてほしいという理屈はなかなか通じないです。

もし本当にリフォームをするのであれば、その投資が成果に繋がり始めた時期を狙うのが良いでしょう。

学習塾で内装リフォームとして考えられるのは、床のタイルカーペットの摩耗状態とか壁の状態、照明、このあたりだと思います。

しかしこれらを大がかりに進めると、それだけでもコスト高になります。
床のタイルカーペットにおいては、何も置いていない場所に張るのと、机や椅子、キャビネットなどがすでにおかれた状態のものを一度全部どかして張る場合では、かかるコストが全然違います。

リニューアルとして、タイルカーペットの張替工事を見積でとったことがあるのですが、まだ人件費がここまで高騰する前の段階で、1坪20,000円ぐらいの見積でした。
担当の方も「ものがあるから、それを一度全部どかしの作業となりますので・・・」と申し訳なさそうに言ってました。

従って、譲渡主側がリフォームしてからの譲渡というのは、譲渡金額が入ってくるにしても出ていくコストもありますので、あまりオススメはできません。

マンションの中古販売でも、リフォームがされているとその分高くなっています。ですが大半の中古マンションは、買主側が移り住むまえにリフォームをします。それは水回りとか、壁クロスとか床とか、一軒家の場合には屋根と外壁の状態によってもリフォーム予算を組むかもしれません。

中古のマンションや家と同じように、物件においてはその場所を継続利用することが大半ですので、中身をリフォームしていくのは、買い手と不動産の貸借人側での打ち合わせに任せるとして、出ていく側の譲渡主の方は見た目をきれいに清潔に保つために場所ごとに整理整頓と清掃を心がけておけば十分です。

4. オーナー様の心身にゆとりがある時期

譲渡交渉は、想像以上に時間と労力を要するものです。財務資料の準備、デューデリジェンスへの対応、買い手との複数回の面談、契約書の作成・確認など、通常業務と並行して進めるには、オーナー自身の心身にゆとりがある時期を選ぶことが重要です。

例えば、受験シーズンの真っ只中や、新年度の準備に追われる時期に譲渡交渉を進めると、冷静な判断ができなかったり、十分な準備ができなかったりする可能性があります。結果として、買い手からの評価を下げてしまったり、不利な条件で契約を結んでしまったりするリスクも高まります。

譲渡は、オーナー様にとって新たな人生のスタートでもあります。焦らず、ご自身のペースで、しっかりと準備を進められる時期を選ぶことが、成功への第一歩となります。

しかしながら、そういう心身ともにゆとりある時期というのは、オーナー業を営んでいる場合は、まずあまりないとは言えます。

やらなくてはならないことを日々こなしながらも、明日にはまたやらなくてはならないことが山積みになる・・・そんな毎日を過ごされてきているはずです。

あえて、この箇所でコメント的に書くとすれば、健康な状態が維持できているときが、意外とベストタイミングなのかもしれません。


譲渡を検討する際に考慮すべき「タイミング以外の要素」

譲渡のタイミングは非常に重要ですが、それだけで成功が決まるわけではありません。譲渡を検討する際には、以下のようなタイミング以外の要素も十分に考慮し、総合的な戦略を練ることが不可欠です。

1. 譲渡の動機と目的の明確化

なぜ譲渡を考えているのか、その動機と目的を明確にすることは、譲渡成功の基盤となります。

引退したい、別の事業に挑戦したい、健康上の理由、後継者がいない、など、様々な動機があるでしょう。譲渡の目的が「できるだけ高く売りたい」のか、「従業員の雇用を守りたい」のか、「教育理念を引き継いでくれる人に譲りたい」のかによっても、取るべき戦略は大きく変わってきます。

目的が明確であれば、買い手との交渉においても一貫した姿勢を保つことができ、後悔のない譲渡に繋がるでしょう。

この場合、とってつけたような世間受けを考えた動機じゃなくて大丈夫です。
冷静に今までの自分とこれからの自分を見つめなおして、結論として譲渡を選択されたかと思います。
その際、私たちが想像する以上に、たくさんのことが走馬灯のように頭をかけめぐったことでしょう。

その素直な気持ちのほうが心に響きます。

2. 譲渡価格の適正評価と希望価格の設定

貴塾の価値を正確に評価することは、譲渡交渉において最も重要なステップの一つです。売上や利益だけでなく、生徒数、生徒の定着率、地域でのブランド力、講師陣の質、教材、独自のノウハウ、立地、設備の状態など、多角的な視点から価値を評価する必要があります。

また、希望する譲渡価格を設定する際には、ご自身の感情的な側面だけでなく、客観的な市場価値や過去のM&A事例などを参考に、現実的な価格を検討することが重要です。高すぎる希望価格は買い手を遠ざけ、低すぎる価格は後悔に繋がります。

↑ ↑ ↑
ここ、重要です。

売り手と買い手がいる以上、案件ごとに必ず落としどころの金額というのが存在します。これは商売においては全部そうです。
その際、売り手は物品を提供し、買い手は対価を支払うという構図です。

売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいという心理が必ずあるので、その溝をどうやって埋めるのかが重要で、歩み寄りがなければ交渉だけが長引き譲渡契約成立にはなりません。
売り手が売る案件はそれ一つです。

しかし、買い手が検討する買い案件は通常は一つではなく、二つ、三つと他にも候補があることが普通です。

よって、歩み寄りが全くない場合は、あっという間に決裂してしまう可能性があるのです。

その場合、もっとも公正に売り手、買い手の納得材料になるのが、他の事例です。例えば直近の売上高とか、顧客数、講師在籍の状態やコストなどの実態と同時に、「問い合わせ件数」とか「講師の応募状況」なども付加価値になります。

譲渡をする場合は、このあたりの数値も把握しておくといいでしょう。

3. 財務状況と事業計画の整理

譲渡の際には、買い手は貴塾の財務状況を詳細に精査します。過去数年間の決算書、試算表、売上推移、生徒数推移、損益計算書、貸借対照表など、全ての財務資料を整理し、いつでも提示できる状態にしておく必要があります。

また、譲渡後の事業継続性を示すために、事業計画や将来の収益予測なども提示できると、買い手はより安心感を覚えるでしょう。

特に、簿外債務や潜在的なリスクがないか事前に確認し、必要であれば専門家のアドバイスを受けることも重要です。透明性のある情報開示は、買い手からの信頼を得る上で不可欠です。
譲渡をするときに、譲渡主オーナーが少々面倒だなと思うのがこの部分です。しかし、経営をしていく上で、これらの数字データなしでは測れませんので、
データを整えておくことも重要です。

4. 従業員への配慮と引き継ぎ体制の構築

学習塾の事業価値は、生徒だけでなく、そこで働く講師やスタッフの存在にも大きく依存しています。譲渡後も彼らが安心して働き続けられるような配慮や、スムーズな引き継ぎ体制の構築は、事業の安定的な継続に繋がります。

譲渡交渉の早い段階で従業員に告知する必要はありませんが、最終的な譲渡が決まった際には、適切なタイミングと方法で情報を共有し、彼らの不安を解消する努力が必要です。主要な講師やスタッフが譲渡を機に退職してしまうと、事業価値が大きく損なわれる可能性があるため、特に注意が必要です。

5. 専門家との連携

学習塾の譲渡は、法務、税務、会計など、多岐にわたる専門知識が求められる複雑なプロセスです。M&A仲介会社、税理士、弁護士など、信頼できる専門家と連携することで、適切なアドバイスを受け、スムーズかつ安全に譲渡を進めることができます。

特に、譲渡契約書の作成や交渉においては、専門家のサポートが不可欠です。ご自身だけで全てを進めようとせず、必要に応じて専門家の力を借りることをためらわないでください。


まとめ:最高のタイミングは「準備が整った時」

学習塾の譲渡において、「この時期がベスト」と一概に断言することはできません。

しかし、年度末・年度初めといった一般的なセオリーが、必ずしも最高の譲渡価格に繋がるとは限らないことを理解し、ご自身の塾の状況や市場の動向を冷静に見極めることが重要です。

理想的なタイミングとは、貴塾の価値が最大限に高まっており、なおかつオーナー様自身が心身ともにゆとりを持って交渉に臨める時期です。それは、新規生徒が順調に増えている時期かもしれませんし、特色あるサービスが軌道に乗っている時期かもしれません。あるいは、経営改善が実を結び、収益性が向上した時期かもしれません。

何よりも大切なのは、譲渡に向けた準備を怠らないことです。財務状況の整理、事業計画の作成、専門家との連携など、事前にしっかりと準備を整えることで、どのようなタイミングであっても、より良い条件で譲渡を実現できる可能性が高まります。

貴塾の譲渡が、オーナー様にとって後悔のない、そして次世代へと続く成功の架け橋となることを心より願っています。



CROSS M&A(クロスM&A)は学習塾・習いごと専門のM&Aサービスで、業界ナンバー1の成約数を誇るBATONZの専門アドバイザーです。BATONZの私の詳細プロフィールはこちらからご確認ください。
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