学習塾M&Aにおける「中古の机・椅子セット」の意外な重要性
塾業界M&Aの現状と動向
近年、学習塾業界におけるM&Aは活発な動きを見せています。少子化による生徒数の減少、大手塾の寡占化、教育IT化への対応、後継者不足など、様々な要因がM&Aを加速させているのが現状です。
買収側から見ると、M&Aは生徒数の確保、ブランド力の強化、優秀な人材の獲得、新たな地域への進出、事業の多角化といったメリットをもたらします。一方、売却側にとっては、事業承継問題の解決、まとまった資金の確保、従業員の雇用維持、事業のさらなる発展といった利点があります。
特に注目すべきは、教育業界全体で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)の波です。これは教育業界だけでなく、産業界全体に拡大しつつあるDX推進の波として捉えることができます。オンライン授業の普及やEdTech(教育×テクノロジー)サービスの台頭は、学習塾の経営環境を大きく変化させています。
※DX推進とは:企業がデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)を実現するために、デジタル技術を活用して組織やビジネスモデル、業務プロセスなどを変革する取り組みのことです。単にデジタル技術を導入するだけでなく、企業文化や風土、働き方まで含めた全体的な変革を目指します。
これにより、M&Aにおいても、単に生徒数や売上だけでなく、オンライン対応の進捗状況やITシステムの導入状況なども評価の対象となるケースが増えているのです。
M&Aにおけるデューデリジェンスの光景:備品リストの行間を読む
学習塾のM&Aプロセスにおいて、デューデリジェンス(事業内容や財務状況の精査)は極めて重要な段階です。財務諸表や契約書、生徒名簿、講師の登録データなど、様々な書類が精査されますが、その中に備品リストが含まれていることをご存じでしょうか。

机、椅子セットなどは、まさにこの備品リストと関連してきます。一見すると些細な項目に見える「机・椅子セット」ですが、M&Aの現場では、その存在が意外な意味を持つことがあります。
例えば、デューデリジェンスの際、買収担当者が売却対象となる学習塾の教室を訪れるとします。そこで目にするのが、実際に使用されている机や椅子です。もし、それらがすべて真新しいものであれば、最近の設備投資が行き届いていると評価されるかもしれません。しかし、多くのケースでは、長年使用されてきた中古の机や椅子が並んでいます。
この「中古の机・椅子」という情報から、M&A担当者は様々なことを読み取ろうとします。
- 設備投資の頻度と経営状態:古い備品が多ければ、資金繰りが厳しく設備投資を控えていた可能性も考えられます。逆に、定期的に買い替えているのであれば、経営が比較的安定していると推測できます。
- 経営者の理念とコスト意識:中古品を有効活用していることは、コスト意識の高さや、持続可能性への配慮を示すものと捉えることもできます。
- 生徒や保護者への配慮:設備が古すぎると、生徒の学習意欲や保護者の印象に悪影響を与える可能性も否定できません。買い替えの必要性があるかどうかも評価の対象となります。
- 資産価値と譲渡後の投資計画:備品の減価償却状況や残存価値も、買収価格に影響を与える要素です。譲渡後、どれくらいの追加投資が必要になるのかを判断する上でも重要な情報となります。
このように、「中古の机・椅子セット」は単なる物理的なモノとしてではなく、売却対象となる学習塾の経営状況、経営者の思想、そして将来的な投資計画を読み解く上での一つの手掛かりとなり得るのです。
もちろん、10年、20年と運営している学習塾であれば、たいていは経年劣化していて当然です。外に目を向ければ看板、内部で使用しているキャビネットや書棚、机、椅子、パソコン、その他デバイスなど、もしかすると、試用に耐えないものもあるでしょう。
M&A交渉における「備品」の駆け引き
デューデリジェンスの結果、備品の状態が明らかになった後、M&A交渉の場で「机・椅子セット」が話題に上ることもあります。
例えば、買収側が「備品が老朽化しており、譲渡後すぐに多額の買い替え費用が発生する」と主張し、買収価格の引き下げを求めてくるケースが考えられます。これに対し、売却側は「中古ではあるが、メンテナンスをしっかりしており、まだまだ十分使用可能である」「むしろコストを抑えながらも、歴史ある塾の雰囲気を保っている」といった反論を展開するかもしれません。
特に、小規模な学習塾のM&Aにおいては、このような細かい備品の評価が交渉の材料となることは珍しくありません。なぜなら、大規模なM&Aと異なり、事業規模が小さい分、個々の資産の価値が相対的に大きくなるからです。
さらに、譲渡後の原状回復義務や備品に関する所有権の移転など、契約書の細部にわたる確認も必要となります。中古の備品が多い場合、それらの修繕義務や瑕疵担保責任についても、より詳細な取り決めが求められることがあります。
表向きの劣化でそこに味わいを感じる場合もありますが、「安全面」でのチェックという視点で見ていくと双方の落としどころも早めに見つかるかもしれません。
【実例(実話)】塾内での椅子の破損事故
これは教室内で突如起こった出来事でした。
「バキッ!」と比較的大きな音がしたため、急いで音の方向に行くと、少々狼狽した様子のガタイの大きな高校生と、椅子の脚の部分が見事に折れてしまっているようすでした。「ケガはないかい?」「ええ、大丈夫です。突然折れました…」「そうか」
折れた椅子の脚は、斜めに折れたようで、まるで達人が一瞬にしてただの木を鋭利な武器に変えたような断面になっていました。(これ、そのまま倒れこんだら、非常に危なかったのでは)そう想像せざるを得ない状況でした。
身長も体重もそれなりにあるであろう男子高校生でしたので、この折れてしまった事態は仕方ないですし、彼を責めることはしませんでした。その代わり、これを作成した業者さんにはすぐに連絡を入れ、画像を提出。業者さんはとても素早い対応をしてくれて、交換してくれることになったのです。
もし、折れたところに倒れこんだら…今でも思い出すと怖い事態です。つまり、机や椅子は、学習塾では必須の品物なので、その状態には気を付けるべきという教訓です。このように比較的安全な教室内であっても、何が起こるかわかりません。
特に机や椅子は普段から使う什器なので、ねじの緩みや全体の軋みなどには十分に気を付けていきましょう。
買収後のシナジー効果と「リソースの最適化」
M&Aが成立した後、買収側は譲り受けた学習塾の経営統合を進めます。この段階で、「中古の机・椅子セット」は再びその存在感を示すことがあります。
買収側の企業が複数の学習塾を運営している場合、譲り受けた塾の備品を既存の塾と共有・再配置することで、コスト削減やリソースの最適化を図ることが可能です。例えば、一方の塾で使われなくなった備品を、別の塾で有効活用するといったケースです。
これは、2号教室、3号教室と展開をする場合には、けっこう頻繁に起こる事態でもあります。机・椅子ともにその形状と大きさ次第では、軽ワゴンでも何回かの往復で運べるかもしれません。
机でも個別指導教室が使っているようなパーテーション付きになりますと、その重量は相当重く、一人で搬送は難しいです。2トントラック、4トントラックなどを手配すれば、搬送費用もそれなりにかかるため、あまりに劣化が目立つようなら、現場で壊してしまったほうがコスト的には安く済むでしょう。
いわゆる、部分的な解体でも業者によってかかる費用が異なりますので、見積もりはとったほうが良いです。
【実例(実話)】解体費用の驚くべき差
教室の内部を一部、または全部解体するというときには、解体業者などに依頼します。この見積もりは、ものすごく違いますので、必ず見積もりを取るようにしてください。
こういうことがありました。
教室の坪数は20坪、解体業者Aの見積もりは18万円、解体業者Bの見積もりはなんと64万円。
このとんでもない差は、今でも鮮明に記憶しております。それぐらいショッキングな出来事だったのです。
よく「見積もりを数社とってみて…」という内容が多くの業者選択サイトなどでも書かれています。この件があるまでは、「たいていどこの業者もそんなに変わらないだろう」と思っていたのですが、この件をきっかけに、必ず見積もりを3社ぐらいは取るようにしています。
これ、本当の事実ですが、恐ろしいですね。
リブランディングや内装リニューアル
また、リブランディングや内装のリニューアルを行う際にも、既存の備品をどのように扱うかが検討されます。すべてを新調するのか、それとも一部は再利用するのか。この判断は、初期投資の抑制や環境負荷の低減といった観点からも重要です。
特に、持続可能性やSDGs(持続可能な開発目標)への意識が高まる現代において、中古品の有効活用は企業の社会的責任(CSR)を果たす上でも意味を持ちます。コスト削減だけでなく、資源の有効活用という視点からも、中古の机・椅子セットの活用は評価されるべき点と言えるでしょう。
同時に、上記で述べた「安全面」から考察するという視点を持っていれば正しい判断ができると思います。
中古市場の活用とM&A戦略
M&Aを検討している学習塾の経営者にとって、「中古の机・椅子セット」は、売却前の資産整理や、M&A後の設備投資戦略において重要なキーワードとなります。
売却側の場合:
- 備品の価値評価:売却前に、使用している机や椅子の状態を確認し、おおよその中古市場での価値を把握しておくことは、デューデリジェンスや価格交渉に臨む上で有利に働きます。
- 不要備品の処分:M&A成立後、あるいは売却に向けて、不要となった備品を中古市場で売却することで、売却益を得たり、廃棄費用を抑えたりすることができます。これにより、純粋な売却益を最大化する戦略も考えられます。
- 売却後の新事業準備:事業承継ではなく、閉業するケースにおいては、残された備品を中古市場に流通させることで、次の事業への資金とすることも可能です。
買収側の場合:
- 設備投資計画の策定:買収後、教室のレイアウト変更や内装のリニューアルを計画する際、中古の机や椅子を積極的に活用することで、初期投資を抑え、より効率的な資金配分が可能になります。
- 中古備品の調達:新たに学習塾を開設する際や、既存塾の拡張を行う際に、新品ではなく中古の机や椅子を調達することで、大幅なコスト削減が期待できます。特に、短期間での多店舗展開を目指す企業にとっては、中古市場の活用が競争優位性をもたらす可能性があります。
- リユース・リサイクルへの貢献:中古備品の積極的な活用は、企業イメージの向上にもつながります。
まとめ:M&A成功の鍵は「細部への目配り」
学習塾のM&Aにおいて、「中古の机・椅子セット」は、その取引の中心となるような大きな要素ではありません。
しかし、この記事で見てきたように、この些細なキーワードの背後には、デューデリジェンスの精緻さ、交渉の駆け引き、買収後のシナジー効果の追求、そして持続可能な経営への意識、さらに安全面の再考察といった、M&A成功の鍵となる様々な要素が隠されています。
M&Aは所有権の移転という目的だけでなく、そこで働く人々の未来、そしてそこで学習する生徒たちの学習環境に大きな影響を与える一大事業です。だからこそ、財務状況や事業計画といった大きな視点だけでなく、今回取り上げた「机・椅子セット」のような細部にまで目配りする姿勢が、成功へと導く重要な要素となるのです。
今後、学習塾業界のM&Aがさらに活発化する中で、このような実務的な視点からの考察が、M&Aを検討する多くの経営者にとっての一助となれば幸いです。中古の備品にすら価値を見出す視点を持つことが、変化の激しい時代を生き抜くための賢明な戦略と言えるでしょう。
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