良い物件は、語りかけてくるもの。「この場所で営業してご覧。けっこういいぞ!」と。
物件が語りかけてくる・・・なんてことは実際はないのです。しかしながら、不動産会社から紹介された初期段階の紙の情報と、実際に現地に出向いた時の自分自身が受けたほんの一瞬の違和感があるのか、または「この場所で営業したご覧。けっこういいぞ!」とまるで語りかけてくるように、ふんわりとした何かに包まれるのか!?
これは、多くの物件内見をすればするほど、磨かれると言いますか、身につくと言いますか・・・とにかくわかってくるのです。見えてくるのです。
最初に結論を申せば、2年目であろうと、3年目であろうと、もし教室数を増やすのであれば、やはり一番は物件選定に尽きるということです。
学習塾や習いごと教室の運営が軌道に乗ってきて、2年目、3年目、5年目と経過するごとに「2つ目、3つ目」と教室の多店舗展開を考えるのは普通のことですし、積極展開をすることでまた新たな風を吹き込み、自分自身の意欲も上がってきます。
気持が前を向いているときには勢いもあります。
さてこの記事では経験談も交えながら2年目以降の教室運営について、重要な物件選定と実際の失敗談をご紹介いたします。
物件選定の極意:紙の情報だけでは見えない「気」を感じ取る
多くの物件を内見する中で、あなたはきっと「この物件はいいな」「ここは何か違う」といった直感的な感覚を抱くでしょう。この感覚こそが、成功する物件選びの鍵となります。
1. 立地は「点」ではなく「面」で捉える
物件の住所や最寄駅からの距離だけでなく、周辺環境全体を「面」で捉えることが重要です。
- ターゲット層の生活動線: 例えば、小学生向けの学習塾であれば、学校や公園、商業施設、そして住宅街からの動線を意識しましょう。保護者が送迎しやすいか、子どもが一人で安全に通えるかなど、実際にその場所を歩いてみることで見えてくるものがあります。
- 競合の有無と質: 周辺に類似の教室があるか、あるとすればどのようなサービスを提供しているのかをリサーチしましょう。競合が多いからと避けるのではなく、その中でどう差別化できるかを考える視点も必要です。
- 地域の将来性: 再開発の予定はないか、人口が増加傾向にあるかなど、長期的な視点で地域の変化も考慮に入れましょう。
2. 物件の「履歴」と「潜在能力」を見抜く
古い物件でも、手入れ次第で魅力的な教室に生まれ変わる可能性があります。
- 前のテナント情報: 以前どのようなお店やオフィスが入っていたのかは重要な情報です。特に、短期間でテナントが入れ替わっている物件は、何らかの問題を抱えている可能性があります。
- 建物の構造と修繕履歴: 水回りや電気設備、空調などのインフラはしっかりしているか。大規模な修繕の予定はないかなど、建物の基本的な情報を確認しましょう。
- 内装の自由度: 間取り変更や内装工事の自由度はどの程度あるか、オーナーとの交渉の余地はあるかなども確認すべき点です。教室のコンセプトに合わせて、柔軟にカスタマイズできる物件が理想です。
3. 「光」と「風」がもたらす学習環境
学習塾や習いごと教室において、採光と換気は学習効率や生徒の健康に直結します。
- 自然光の取り込み: 窓の配置や大きさ、日当たりはどうか。自然光が差し込む明るい教室は、生徒の集中力を高め、快適な学習環境を提供します。
- 換気のしやすさ: 窓の開閉がスムーズか、エアコンだけでなく空気の入れ替えがしやすい構造か。特に感染症対策が重要視される現在、換気の良さは必須条件と言えるでしょう。
- 騒音対策: 交通量の多い道路沿いではないか、隣接する店舗からの音はどうかなど、外部からの騒音も確認しましょう。静かな環境は、学習に集中できる空間を作り出します。
4. 事業計画と物件の整合性
いくら良い物件でも、あなたの事業計画に合致していなければ意味がありません。
- 賃料と初期費用: 事業計画上の収支と照らし合わせ、無理のない賃料設定か、敷金・礼金、仲介手数料などの初期費用は予算内かを確認しましょう。
- 広さとレイアウト: 想定される生徒数や指導スタイルに合わせて、適切な広さがあるか。個別指導スペース、集団指導スペース、休憩スペースなど、必要な区画を確保できるか具体的にイメージしましょう。
- 設備要件: トイレの数、手洗い場の有無、電源の数、インターネット回線の状況など、教室運営に必要な設備が整っているかを確認しましょう。
「ここだ!」と感じる瞬間とは?
多くの物件を見る中で、ある物件に対して「ここだ!」と感じる瞬間が訪れることがあります。それは、単に条件が揃っているというだけでなく、説明しがたい「心地よさ」や「可能性」を感じる瞬間です。
1. 内見時の直感を信じる
五感をフル活用し、物件の「空気」を感じ取りましょう。
- 視覚: 入口から教室までの導線、窓からの景色、壁や床の色合いなど、視覚的に得られる情報から、そこで生徒たちが学ぶ姿を想像してみてください。
- 聴覚: 外部からの騒音、隣接する店舗の音、建物内の反響音など、実際に耳を澄ませて確認しましょう。
- 嗅覚: カビ臭さやタバコの臭いはないか、清潔感のある空間かを感じ取りましょう。
- 触覚: 壁や床の質感、ドアノブの感触など、実際に触れてみて感じることも重要です。
- 第六感: 論理的な説明はできないけれど、「なんとなく良い」と感じる直感を大切にしましょう。多くの物件を見ているうちに、この直感は磨かれていきます。
2. 時間帯を変えて複数回内見する
一度の内見だけでは見えない側面があります。
- 昼と夜: 昼間の明るい時間帯だけでなく、夕方や夜間にも訪れてみましょう。夜間の雰囲気、周辺の安全性、街灯の有無なども確認できます。
- 平日と休日: 平日の昼間はオフィス街で人通りが多くても、休日は静まり返ってしまう場所もあります。ターゲット層が最も利用する時間帯に合わせて、人通りや賑わいを確認しましょう。
- 異なる曜日: 例えば、習いごとのピークである週末に訪れることで、実際の生徒さんの通学状況をより具体的にイメージできます。
3. 周辺を歩き回る「足」でのリサーチ
物件の周辺環境は、教室の成功を左右する重要な要素です。
- 通学路の安全性: 小さな子どもを通わせる保護者にとって、通学路の安全性は非常に重要なポイントです。危険な交差点はないか、人通りはどうか、夜間の明るさはどうかなどを実際に歩いて確認しましょう。
- 近隣店舗の雰囲気: 周辺の飲食店や小売店、他の教育施設などの雰囲気も確認しましょう。教室のイメージに合う、良い相乗効果を生むような店舗が近くにあると理想的です。
- 住民層のリサーチ: スーパーマーケットや公園などで、どのような層の人が多く住んでいるのかをさりげなく観察してみましょう。あなたのターゲット層と合致しているかを判断する材料になります。
物件探しで陥りがちな失敗と教訓
物件探しは、多くの期待と同時に不安も伴うものです。特に多店舗展開を考える際、勢いだけで進めてしまうと、思わぬ落とし穴にはまることもあります。私の経験から、よくある失敗とその教訓をお伝えします。
~回顧録~
この経験は、新規開校で物件を借りて結果失敗だった唯一の経験です。
サイトで「船橋市 貸店舗 貸事務所」というキーワードで検索していきました。上位をひしめくサイトはだいたいいつもの顔ぶれです。見慣れたサイト見つけポチっとクリック。
条件を入れて検索をしていったところ、部屋番号が104、105と続き物件が空きになっているところを見つけました。一つの物件が15坪。
そのとき私は「この2つの部屋を1つにすることが出来れば合計30坪になる」「もしかしたら交渉すれば(2つ一緒に申込み、契約をすればディスカウント交渉が出来るかもしれない」というイメージを持ちました。
掲載されたいた写真も明るい写真で、運営後のイメージも沸いたのです。
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現地へはバイクで行ったのですが、
①ん?ちょっと坂が多いかな
これが物件に行きつくまでの最初の違和感でした。
内見したときには、104と105の2つの物件を見させていただいたのですが、
②何となくかび臭い
③部屋の窓が少ない
これが第二、第三の違和感でした。
「この2つの部屋を同時に借りた場合には家賃とか保証金とかディスカウントできるでしょうか。」という質問と
もう一つ重要な質問として
「ちなみにこの2つを1つにするために壁を抜く必要があるのですが、それは可能でしょうか」
この2つを投げていました。
こういう交渉というは、通常は申込書を入れてからが業界の通例です。案の定、担当者さんはそのようなことを言ってきましたので、申込書を差し入れ、どの程度までディスカウントしてほしいのかということと、保証金をいくらにしてほしいという具体的内容を伝えました。
その日のうちに大家さんに打診をしてくれたようです。
その時の回答は、
「大家さんに交渉した結果、家賃は2つ一緒であれば〇万円、保証金は何とか頑張ってご希望通りの〇万円にすることが出来ました。壁を抜くことに関しても出るときに原状回復してくれたら問題ないですよとのことでした。本当はここの物件の図面があればいいのですが、何しろ少し古くて図面が見当たらないんです。ただ壁はかんたんに抜けるので大丈夫ですよ」
「そうですか!良かったです。ではそれでお願いします!」と、比較的トントン拍子で進めていったのです。
ところが、
第四の大きな違和感がこの後襲ってきます。
早速、いつも依頼している内外装工事の方に連絡をとり現地調査をしてもらうことになりました。
・電気は2系統使うことになる(2部屋なので)
・カッティングシートや看板は問題なく設置できる
・若干床の傾斜があるようだが、什器を設置するさいに水平を取るので大丈夫
そして最後の項目。
「ところで、壁を抜くということですが、本当に抜けますか?赤外線調査とか入れるとけっこうコスト高になってしまうのですが・・」
「ええ、私も再三不動産会社の担当者さんに確認して、かんたんに抜けるとのことでしたので問題ないですよ」
そんなやり取りがあって、
さて、実際の工事日。その日は壁を抜く工事の日でした。工事の親方から電話がかかってきました。
「あの壁・・・抜くのは不可能ですよ?」
「え?」
「鉄骨というか、柱が・・そうですね、40センチぐらいの間隔で入ってます。少し抜いてしまっているのですが、この状態で不動産会社さんに確認してもらったほうがいいですよ」
この第四の大きな違和感のとき、
「こ、これはひどい・・・工事まで入れて、いろいろ手配したのに・・・」という絶望と怒りがこみあげてきました。
不動産会社の担当者さんは、あまり平身低頭という感じではなく、「おかしいなぁ」という感想を漏らすだけでした。
それではこちらも話が大きく食い違うので、話の流れをきちんと添えて、契約を御破算にしてほしい旨を伝えました。これは不動産会社側とオーナーさん側のミスでしたので、それなりの対応も要求しました。
オーナーさんはとても言い方でのんでくれたのです。
しかし私はここで大きな判断の過ちをしたのです。
「半分の広さで15坪でもやれないことはないかな・・・」
甘かったです。どうしようもなく自分が甘かったと猛省です。私はあのとき、
「あやが付いてしまった。この物件とは縁がなかったということで他をまた探そう」こういう気持になるべきところがそうなれなかったのです。
4つも違和感を感じながら、自分は判断を大きく間違えました。結局この物件での運営は失敗しました。2年ぐらいでしょうか・・・閉校しました。
新規開校で自分で物件探しからやって閉校した唯一の事例です。
この記事をご覧頂いている方にはこんな経験はしてほしくないので赤裸々な失敗談を披露いたしました。
最後、何故取りやめが出来なかったのか・・・後になって悔やみました。
良い物件との出会いは、良い「縁」を引き寄せる
物件選びは、単に場所を選ぶだけでなく、その場所でどんな生徒と出会い、どんな教室を創り上げていくのか、未来を描くプロセスです。良い物件は、生徒や保護者、そして共に働くスタッフにとっても居心地の良い場所となり、教室の成長を後押ししてくれます。
最終チェックリスト:契約前に確認すべきこと
物件を絞り込んだら、契約前に以下の項目を最終確認しましょう。
- 契約条件の最終確認: 賃料、敷金・礼金、更新料、契約期間、解約条件など、全ての契約内容を再度確認し、不明な点があれば不動産会社に徹底的に質問しましょう。契約の前には契約の雛形を送ってくれるところもあります。これも担当者次第かもしれませんが、丁寧に教えてくれるといころ、少々頼りない返答のところ、面倒そうな対応をするところなど色々です。基本的に契約書にサインをする前にオールチェックをしましょう。
- 特約事項の確認: 原状回復の範囲、内装工事の可否、看板設置の可否など、通常の契約条項以外に特約事項がないか、また、それがあなたの希望と合致しているかを確認しましょう。
ときにこの部分は重要事項説明書にも記載があることがほとんどです。特に原状回復のところは文言をよく確認してください。不動産関係のトラブルで多いのは入るときではなくて、出るときです。
原状回復にはルールがあります(←重要)
契約書に書いてあることが絶対とは限らず、専門家が見たら「これはおかしい」ということがけっこうあるのです。
【補足】クロスM&Aでは、そのようなトラブル対応も出来ます。お困りの際は是非一度連絡をください。 - 設備の動作確認: エアコン、給湯器、トイレ、電気設備など、主要な設備が正常に動作するか、入居前に不動産会社立ち合いのもと確認することをお勧めします。
- 周辺住民への配慮: 騒音や振動など、教室運営が周辺住民に迷惑をかける可能性がないか、事前に配慮すべき点がないかを確認しましょう。
- 行政への確認: 用途地域や建築基準法、消防法など、教室の開業に必要な法規制に適合しているか、事前に役所の担当部署に確認しておくことも重要です。
まとめ:直感を信じつつ、冷静に立ち止り、慎重に進める
物件探しは、情報収集と直感、そして冷静な判断力のバランスが重要です。多くの物件を見て、あなたの教室がそこで輝く姿を具体的にイメージできる場所こそが、最高の物件と言えるでしょう。
焦らず、しかし着実に。あなたの「ここだ!」という直感を信じつつ、冷静にリスクを評価し、最高の物件と巡り合えることを願っています。
逆に、ほんの少しでも違和感を感じたら「ちょっと待てよ」と冷静になる時間をもつことも大切です。この違和感が交渉によって打ち消されるのか、自分でコストを払って打ち消すのか、そういう部分もきちんと計算してみてください。
多店舗展開は、新たな挑戦であり、教室の成長を加速させる大きなチャンスです。この記事が、あなたの次のステップを力強く後押しする一助となれば幸いです。