学習塾・習いごと教室のM&A:成功に導く企業概要書(IM)の作り方

企業の合併・買収(M&A)において、対象企業の詳細をまとめた企業概要書(Information Memorandum:IM)は、買い手候補が投資判断を下す上で極めて重要な資料です。

特に学習塾や習いごと教室といった教育サービス業の場合、その作成には業界特有のポイントを押さえる必要があります。ここでは、学習塾・習いごと教室のIMの作り方について、網羅的に解説します。

NN情報(ノンネーム情報)を作成したら、企業概要書(IM)に取り掛かりましょう。


企業概要書(IM)の目的と重要性

IMは、売り手企業が買い手候補に対し、自社の事業内容、財務状況、強み、市場環境などを詳細に説明するための公式文書です。これにより、買い手は対象企業の全体像を把握し、M&Aの検討を進めるかどうかの判断材料とします。

学習塾・習いごと教室のM&Aでは、財務諸表だけでなく、

教育理念
指導カリキュラム
講師陣の質
生徒募集の仕組み
保護者との関係性


など、無形資産やオペレーションに関する情報がより一層重要になります。これらをIMで適切に伝えることで、買い手は事業の成長性やシナジー効果を具体的にイメージしやすくなります。


IMとDDの違い

ここで少し混同しやすいので、用語を整理しておきましょう。IMとDDの違いです。

・Information Memorandum (インフォメーションメモランダム、略称IM) とは、M&A(企業の合併・買収)取引において、売却対象となる企業や事業の詳細な情報をまとめた資料のことを指します。

・Due Diligence(デューデリジェンス、略称DD)とは、M&Aを行う際に、譲受候補の企業が譲渡企業の事業内容や財務状況などを調査し、さまざまな観点からその企業の資産価値やリスクを測ること


IMに含めるべき主要項目(しかし、既成概念にとらわれる必要はありません)

学習塾・習いごと教室のIMは、以下の項目を網羅的に記載することが一般的です。一般的・・・ではありますが、既成概念にとらわれる必要はありません。各項目で何をどのように記述すべきか、具体的に見ていきましょう。

1. エグゼクティブサマリー

IMの冒頭に配置される要約です。読み手がIM全体を読み進める前に、対象企業の最も重要な情報を短時間で把握できるよう、簡潔かつ魅力的に記述します。

  • 企業概要: 設立年、所在地、代表者、事業内容の概略。
  • 事業の強み: 競合優位性、独自の指導メソッド、高実績、講師の質など、特に強調したい点を3〜5点に絞って提示します。
  • 業績ハイライト: 主要な財務数値(売上高、営業利益、生徒数、生徒単価など)の推移をグラフなどで視覚的に示し、好調な点をアピールします。
  • M&Aの背景と目的: なぜM&Aを検討しているのか、簡潔に述べます。

2. 会社概要

基本的な企業情報を詳細に記載します。

  • 正式名称、所在地、連絡先
  • 設立年月日
  • 資本金、株主構成
  • 役員構成
  • 従業員数(正社員、非常勤講師、事務スタッフなど内訳を明記)
  • 許認可・登録情報(塾の場合、特定の許認可は不要なことが多いですが、関連法規への準拠を明確にします)

3. 事業内容

学習塾・習いごと教室の核となる部分です。具体的に何を提供しているのかを明確に伝えます。

  • 提供サービスの詳細:
    • 学習塾の場合: 小学部、中学部、高校部などの対象学年、指導形態(個別指導、集団指導、少人数制など)、主要科目、コース設定、教材、年間カリキュラム、季節講習、模擬試験など。
    • 習いごと教室の場合: 提供する活動の種類(英語、プログラミング、音楽、美術、スポーツなど)、対象年齢、レベル別クラス、レッスン時間、発表会やイベントの有無など。
  • 指導理念・教育方針: どのような理念に基づき、どのような教育を提供しているのかを明確にします。これは、単なるサービス提供に留まらない、企業文化や価値観を伝える上で重要です。
  • 競合との差別化要因: 他の塾や教室にはない、独自の強みや工夫を具体的に記述します(例:個別最適化された学習プラン、独自のモチベーション向上プログラム、地域密着型のサポートなど)。
  • 立地と商圏分析: 教室の所在地、周辺の競合状況、ターゲット層(学校区、住民層など)について説明します。
  • 生徒募集・集客戦略: どのように生徒を集めているのか(例:ウェブサイト、SNS広告、チラシ配布、口コミ、体験授業、紹介制度など)を具体的に示します。
  • 講師陣の質と体制: 講師の採用基準、研修制度、教務力、生徒に対するサポート体制などを具体的に説明します。講師の専門性や経験は、教育サービスの質を担保する重要な要素です。

4. 組織体制と人材

企業の人的資源について詳述します。

  • 組織図: 経営層、教室長、教務、講師、事務などの役割分担と連携体制を示します。
  • 主要な人材の経歴: 代表者や主要な経営陣、教室長などの経歴や専門性を記載します。
  • 従業員の構成: 正社員、契約社員、アルバイトなど、雇用形態別の人数、平均年齢、勤続年数などを示します。
  • 人事制度・研修制度: 評価制度、給与体系、福利厚生、講師の専門性向上に向けた研修プログラムなどを説明します。

5. 財務情報

企業の経済状況を客観的に示します。最低でも過去3期分の財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を添付し、主要な財務指標の推移を分析します。

  • 売上高の推移と構成: 生徒数、生徒単価、コース別の売上構成など、詳細な内訳を分析します。季節変動がある場合はその説明も加えます。
  • 費用構造: 人件費、家賃、教材費、広告宣伝費などの主要な費用の内訳と推移を説明します。
  • 利益分析: 粗利益率、営業利益率、経常利益率などの推移と、その変動要因を分析します。
  • 資産・負債の内訳: 現預金、売掛金、固定資産(校舎、設備など)、買掛金、借入金などの構成を説明します。
  • キャッシュフロー: 営業活動、投資活動、財務活動によるキャッシュフローの状況を説明します。
  • 将来の財務見通し: 現状の計画に基づく、今後の売上や利益の見通しを示します。

6. 市場環境と競合分析

企業が事業を展開する外部環境を分析します。

  • 業界トレンド: 少子化の影響、教育改革の動向、オンライン教育の普及、習いごと需要の変化など、業界全体に影響を与えるトレンドを分析します。
  • ターゲット市場の成長性: 対象とする地域や学年、ニーズの市場規模と成長性を分析します。
  • 競合分析: 主要な競合他社の強み、弱み、市場での位置づけを分析し、自社の競争優位性を再確認します。

7. 事業のリスク要因

事業運営における潜在的なリスクを正直に開示します。これにより、買い手はリスクを織り込んだ上で検討を進めることができます。

  • 少子化による生徒数減少のリスク
  • 競合激化による生徒獲得の困難化
  • 主要講師の退職リスク
  • 法改正や規制変更のリスク
  • ITシステムへの依存リスク
  • 風評被害のリスク

さて、ここまでが、どちらかというと「一般的な内容」です。しかし、M&Aで学習塾や習いごと教室を譲渡しよう、売ろう、売却しようと思っている人たちは、完全に順風満帆であれば、「売る」ことはあまり考えないのではないでしょうか。

何かしら、原因・きっかけがあっての「譲渡の決断」の中には、オーナーご自身の「不安」が隠されれているように思います。

CROSS M&A (通称:クロスマ)のアドバイザーも学習塾を15年経験する中で、譲渡や買収を経験していますが、譲渡するときの決断の中にはやはり大なり小なり「負の要素」があるのが事実です。

そこで、クロスマのアドバイザーの実例から、以下の資料を追加することをオススメいたします。


★.もし・・・業績がダウンしているのであれば、その原因分析

事例(実話)コーナー

【実例(実話)】
では、いつものように実例を絡めてご説明いたします

内容は、クロスマアドバイザー自身が譲渡の際に、負の要素を自分なりに分析して提示したというものです。

根っからの正直者ですので、この実話もリアルな話としてそのまま受け止めてください。

ある譲渡案件で、自分なりにIM(企業概要書)を作成するときに、心のどこかで「ああ、この教室、売るのもったいないかなぁ・・・」と何度も頭をよぎったことがあります。
物件も視認性よし!問い合わせ件数も非常に多く、教室内も美麗、駅徒歩1分で広さもありましたらので、十分に地域の光り輝く存在になりえる教室でした。

しかしながら、実態をとらえて、また、来期をとらえて売却することにしました。
買い手候補はすぐに見つかりました。

その際、企業概要書を作成したのですが、付け加えたものが

・業績がダウンした経緯

です。

これは、言い訳的なことをずらずらを並べ立てたのではなく、実態に即した偽りのない数字データからの分析をしっかりと資料に落とし込みました。

このことが買い手にとっては、非常のプラスの情報になったそうです。これが決め手だったとは言いませんが、負の情報とそこに至る経緯などもデータで明示したことで、買い手にイメージをもたせることが出来たのです。


IM作成のポイント

1. 客観性と正確性

IMに記載する情報は、事実に基づき、客観的かつ正確である必要があります。誇張や虚偽の情報は、M&Aプロセスにおいて信頼を失う原因となります。必要に応じて、公認会計士や税理士などの専門家のアドバイスを受け、情報の正確性を確保しましょう。

2. 網羅性と具体性

買い手が必要とするであろう情報を漏れなく網羅することが重要です。特に学習塾・習いごと教室の場合、教育内容や指導方法、講師の質など、数値化しにくい無形資産に関する情報を具体的に記述することで、買い手は事業の本質をより深く理解できます。

3. ストーリー性を持たせる

単なる情報の羅列ではなく、企業の成長過程、強みの源泉、M&Aを通じて実現したいことなど、一貫したストーリー性を持たせることで、読み手の興味を引きつけ、共感を促します。

4. 視覚的な表現

グラフ、図、写真などを積極的に活用し、視覚的に分かりやすく情報を整理します。特に財務数値の推移や組織図などは、視覚化することで理解が深まります。教室の雰囲気や生徒の様子が伝わる写真なども効果的です。

5. M&Aアドバイザーとの連携

IMの作成にあたっては、開示する情報が法的に問題ないか、秘密保持義務に関する記載は適切かなど、M&Aアドバイザーと連携して確認するとよいでしょう。

6. 秘密保持契約(NDA)の締結後

IMは企業に関する機密情報を含むため、買い手候補との間で秘密保持契約(NDA)を締結した後に開示することが原則です。


まとめ

学習塾・習いごと教室の企業概要書(IM)は、単に企業の概要を伝えるだけでなく、その教育理念、指導の質、生徒との関係性、そして将来の成長可能性を買い手候補に伝えるための重要な文書です。本記事で解説したポイントを押さえ、具体的かつ魅力的なIMを作成することで、M&Aの成功に一歩近づくことができます。丁寧な準備と専門家との連携を通じて、貴社の持つ価値を最大限に伝えられるIMを作り上げてください。

BATONZ×CROSS M&A

学習塾・習いごと専門M&AサービスCROSS M&A(通称:クロスマ)は、業界ナンバー1の成約数を誇るBATONZの専門アドバイザーです。BATONZの私の詳細プロフィールはこちらからご確認ください。
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