M&Aで会社・事業を売却する際に準備すべき資料
M&Aで会社や事業を売却する際、成功裡に取引を終えるためには、売却側が事前に適切な資料を準備し、開示することが不可欠です。

これらの資料は、買い手が対象会社の価値を正確に評価し、潜在的なリスクを特定するために使用されます。買い手からの信頼を得て円滑な交渉を進めるためにも、準備は徹底的に行う必要があります。
M&Aで会社・事業を売却する際に準備すべき資料
M&A(Mergers & Acquisitions)において、会社や事業の売却を検討する際には、多岐にわたる資料の準備が求められます。
押さえるべき点は3つ
- 財務関連資料
- 法務関連資料
- 事業関連資料
これらの資料は、買い手候補がデューデリジェンス(詳細調査)を行う上で不可欠であり、正確性・網羅性が取引の成否を左右すると言っても過言ではありません。
それでは、下記に、売却時に特に重要となる主要な資料とそのポイントについて詳しく解説します。書かれている内容がより専門的ですので、尻込みしてしまうかもしれませんが、要は、「財務」「法務」「事業内容」この3つです。
これらの書類(ファイル)は譲渡主であるオーナー様ご自身が買い手と交渉しようと、M&Aアドバイザーに依頼する形にしようと、必要書類として提示を求められるものですので、以下、我慢して一読願います。
【財務関連資料】
財務関連資料は、会社の経済状況を明確に示し、買い手が企業価値を評価するための最も重要な情報源となります。
1. 決算書(過去3期分)
最低でも過去3期分の決算書(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)が必要ですし、提示を求められます。これらは、会社の収益性、安定性、資金繰りの状況を包括的に把握するために不可欠です。
会社として上り調子なのか、下り気味なのか、復調の兆しがあるのか、急激にダウンしているのか、会社の全体像を把握するためのものです。
決算書で一番見られるのは、やはり「売上高」です。
- 損益計算書(P/L):
- 売上高: 過去3年間の売上推移を詳細に分析します。売上が伸びているのか、横ばいなのか、あるいは急落しているのかによって、将来の成長性に関する見方が大きく変わります。季節性や特定の取引に依存していないかなども確認されます。
- 売上総利益(粗利): 会社の事業が本質的に利益を生み出す力を示します。同業他社と比較して妥当な水準であるか、変動要因はないかなどを確認します。
- 営業利益: 本業からの収益力を示します。売上高や売上総利益が横ばいにもかかわらず営業利益が減少している場合、販売費及び一般管理費(販管費)が増加している可能性があり、その内訳(人件費、広告宣伝費、旅費交通費など)を詳細に確認する必要があります。
- 経常利益・当期純利益: 企業全体の収益力を示し、事業外収益や特別損益の影響も考慮して分析されます。
- 貸借対照表(B/S):
- 資産の部: 現金預金、売掛金、棚卸資産、固定資産(有形・無形)などを確認します。特に売掛金の主要な販売先や回収状況、棚卸資産の滞留状況などは詳細にチェックされます。
- 負債の部: 買掛金、未払金、借入金、退職給付引当金などを確認します。特に未払金については、主要な外注先への支払い状況や滞留がないか、偶発債務がないかなどを確認します。社会保険料の未払いなど、表面化していない負債がないかどうかも重要な確認事項です。
- 純資産の部: 資本金、資本準備金、利益剰余金などを確認します。自己資本比率の推移や、過年度の利益処分状況もチェックポイントです。
- キャッシュフロー計算書(C/F):
- 営業活動、投資活動、財務活動によるキャッシュフローを分析し、資金の源泉と使途を把握します。特に営業キャッシュフローが安定してプラスであるか、投資活動が戦略的なものかなどが重視されます。
2. 税務申告書(過去3期分)
決算書と合わせて、税務申告書も非常に重要な資料です。税務申告書は会計上の利益と税務上の利益の調整状況を示すとともに、企業組織や株主構成など、決算書だけでは見えない情報を提供します。

↓ ↓ ↓ ここを見られます。
- 別表二(同族会社等の判定に関する明細書):
- 会社の株主構成や持ち株比率を明確にします。記載された株主と、実際のヒアリングで確認される株主が異なるケース(名義貸しなど)が散見されるため、この点の整合性は厳しくチェックされます。これにより、将来的な株主間のトラブルや権利関係の複雑さを未然に防ぎます。
- 別表八(受取配当等の益金不算入に関する明細書):
- グループ会社からの受取配当金がある場合に作成されます。これにより、対象会社がどのようなグループ会社と取引があるか、あるいはどのような資本関係にあるかといった全体像を把握することができます。連結決算が求められる場合など、この情報は非常に重要です。
- 別表五の二(租税公課の納付状況等に関する明細書):
- 未払いの法人税、消費税、地方税などの有無を確認します。税金の未払いはM&A後の財務的なリスクとなるため、詳細に確認されます。また、社会保険料や労働保険料などの未払いがないかどうかも、企業のコンプライアンス体制を測る上で重要な指標となります。経営者個人が未払いを指示しているケースなども発覚することがあり、注意が必要です。
- 減価償却試算台帳:
- 会社が保有する設備、車両、機械などの固定資産の詳細が記載されています。個々の資産の取得年月、取得価額、減価償却方法、償却率、帳簿価額などが把握できます。M&Aの対象が事業譲渡の場合、どの資産が譲渡対象となるかを特定するために不可欠です。また、設備の老朽化度合いや今後の設備投資計画の策定にも役立ちます。
3. 勘定科目内訳明細書
決算書の各勘定科目の詳細を示す資料です。
- 売掛金内訳書: 主要な販売先ごとの売掛金残高、発生日、回収予定日、滞留状況などを詳述します。売掛金の回収可能性や、特定の取引先への依存度を評価するために重要です。
- 買掛金・未払金内訳書: 主要な仕入先や外注先ごとの買掛金・未払金残高、発生日、支払予定日などを詳述します。支払サイトの状況や、未払いの発生状況を確認します。
- 固定資産内訳書: 減価償却試算台帳と重複する部分もありますが、個々の固定資産の取得価額、償却累計額、帳簿価額などを一覧で示します。
【法務関連資料】
法務関連資料は、会社の法的状況、権利関係、契約関係を明らかにし、潜在的な法的リスクを洗い出すために必要です。
1. 登記事項証明書(登記簿謄本)
会社の設立から現在までの法人履歴、商号、本店所在地、目的、発行済株式総数、役員構成などが記載された、いわば会社の「本人確認書類」です。
基本は3か月以内のもの(場合によっては2か月以内)です。
- 設立年月日: 会社の歴史と存続期間を示します。
- 本店所在地: 会社の主たる事業所の所在地を確認します。
- 役員情報: 代表取締役、取締役、監査役などの氏名、就任年月日、重任・辞任の履歴を確認します。役員の変更履歴から、経営の安定性やガバナンス体制を推測することもあります。
- 目的: 会社が営む事業の内容が記載されており、現在の事業と合致しているかを確認します。
- 発行済株式の総数及び種類: 株式の状況を確認し、資本政策の理解に役立てます。
- 会社設立当初からの履歴事項: 変更履歴を通じて、会社の重要事項の変遷を把握します。特に、過去の商号変更や本店移転、増資減資、役員変更など、重要な変更点は詳細に確認されます。
2. 不動産登記簿謄本
会社が不動産を所有している場合に必要です。※特にみられる項目は「乙区」です。
- 甲区(所有権に関する事項): 不動産の所有権に関する情報(所有者、所有権移転の履歴など)が記載されています。
- 乙区(所有権以外の権利に関する事項): 抵当権、根抵当権、賃借権など、所有権以外の権利に関する情報が記載されています。特に、金融機関からの借入金に対する担保として抵当権が設定されていないかなど、負債の状況と関連して重要な情報となります。不動産がM&Aの対象となる場合、これらの権利関係は売却価格や条件に大きく影響します。
3. 許認可一覧
事業を継続するために必要な許認可(例:建設業許可、宅地建物取引業免許、古物商許可、医療法人認可など)の一覧と、それぞれの有効期限、更新状況を提示します。許認可が失効していたり、更新手続きが滞っていたりする場合、事業継続に支障をきたすリスクがあります。
学習塾や習いごと教室は、特に許認可業務ではありませんが、地域地区によって定められている場合がありますので念のため確認しておきましょう。

↓ ↓ ↓ これらの各種契約書もまとめて準備しておきましょう。
4. 主要な契約書
事業運営に不可欠な各種契約書は、将来の収益性やリスクを評価する上で重要です。
- 売買契約書: 主要な仕入先や販売先との契約内容(価格、数量、納期、支払い条件、契約期間など)を確認します。
- 賃貸借契約書: オフィス、工場、倉庫などの不動産賃貸契約の内容(賃料、契約期間、解約条件など)を確認します。
重要事項説明書や特記事項を見ると、事業譲渡の際に新規で不動産契約を結ぶ際に、どのような注意が必要なのかがわかります。
- フランチャイズ契約書: フランチャイズ事業の場合、本部との契約内容を詳細に確認します。
業態がフランチャイズの場合には、必ずこの契約書を精査します。
買い手が事業継続する際には、別個「買い手」と「FC本部」で契約が必要になります。その事前段階で、どのような契約になっているのかを確認します。
- 業務委託契約書: アウトソーシングしている業務や、特定のサービス提供に関する契約内容を確認します。
- ライセンス契約書: 知的財産権に関するライセンス契約の有無、内容を確認します。
- 金融機関との金銭消費貸借契約書: 借入金の詳細(借入先、借入額、金利、返済条件、担保など)を確認します。
こちらは株式譲渡(つまり会社まるごと譲渡)の場合には必要ですが、事業譲渡の場合は事業の切り売りですので、必要ありません。
- 労働契約書・就業規則: 従業員との雇用契約の内容、就業規則、賃金規程などを確認し、労務リスクを評価します。
重要度は高いです。
例えば、従業員(教室長やスタッフ、社員講師、アルバイトなど)を継続雇用できる場合には、今までの条件とあまりにも乖離すれば即時離脱に繋がるかもしれません。
そのため、現状の従業員がどのような条件(給与条件、休日などの規定)で雇用しているのかを労働条件通知書や、雇用契約書などで確認します。
【事業関連資料】
事業関連資料は、会社の事業内容、市場における立ち位置、強みなどを買い手に理解してもらうための資料です。
1. 会社案内、製品カタログ、商品カタログ、サービス概要書
会社の事業内容、提供している製品やサービス、ターゲット顧客、強みなどを具体的に説明する資料です。
- 事業内容の概要: どのような事業を、誰に対して行っているのかを明確に記述します。
- 製品・サービスの詳細: 各製品・サービスの特徴、価格設定、競合優位性、開発状況などを具体的に説明します。
- 販売チャネル: どこを通じて、どのように製品・サービスを顧客に届けているのかを説明します。
- 仕入先と販売先の構成: 主要な仕入先と販売先のリスト、それぞれの取引割合などを開示し、特定の取引先への依存度を評価します。
- 競合他社との比較: 同業他社と比較して、自社の強み(価格競争力、技術力、ブランド力、顧客基盤など)や弱みを客観的に分析し、説明します。市場におけるポジショニングを理解してもらうために重要です。
- 業界平均指標との比較: 「業種別審査辞典」や「SPEEDA」、「TKC経営指標」といった外部データを利用し、自社の財務指標や経営指標が業界平均と比較して良いのか悪いのかを客観的に示すことで、買い手の理解を深めます。これにより、自社の競争優位性や改善点を明確に提示できます。
2. 組織図・従業員リスト
会社の組織体制を理解するために必要です。
- 組織図: 部門構成、役職、人員配置などを視覚的に示します。
- 従業員リスト: 従業員の氏名、入社年月日、役職、給与、賞与、勤続年数などを記載します。特に、特定のキーパーソンへの依存度や、M&A後の人事統合の課題などを評価するために重要です。
3. 事業計画書
今後の事業展開、成長戦略、売上・利益目標などを記載した資料です。買い手がM&A後の事業シナジーや投資回収期間を評価するために不可欠です。
- 現状分析: 自社の強み、弱み、機会、脅威(SWOT分析など)を明確にします。
- 市場分析: ターゲット市場の規模、成長性、競合状況などを詳述します。
- 製品・サービス戦略: 今後の製品開発、サービス改善、新規事業展開の計画を説明します。
- マーケティング戦略: 顧客獲得のための戦略、販売促進策などを説明します。
- 財務計画: 将来の売上、費用、利益、キャッシュフローなどの予測を具体的に示します。
4. その他
- 知的財産に関する資料: 会社が保有する特許、商標、著作権などのリストと、それらの登録状況や活用状況に関する資料です。無形資産の評価に不可欠です。
- 訴訟・紛争に関する資料: 現在抱えている、または過去に経験した訴訟や紛争に関する資料です。潜在的な法的リスクを把握するために重要です。
- 環境関連資料: 事業活動が環境に与える影響に関する資料(環境許認可、排出量データ、環境報告書など)です。環境リスクの評価に必要です。
- 社内規定・マニュアル: 経営に関する社内規定、各種業務マニュアルなど、企業統治や業務プロセスの透明性を示す資料です。
事業関連資料については、譲渡主様側の事業規模(会社運営、個人運営)などによってもかなり違いますので、上記のすべてではありません。
最低限必要なものを「学習塾・習いごと」に照準をあてていえば、
・事業の内容がわかるカタログやパンフレット
・授業料や講習、その他のサービスの対価として明記された料金表
・業務カレンダー(年間)
・授業の時間割(通常の時期と講習時期)
・従業員関連の資料(業務マニュアルなど)
・顧客資料
・従業員や顧客とのトラブルについての資料
このあたりを準備しておくと良いでしょう。
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【実例(実話)】
さて、今回も実例(実話)で経験した内容を御伝えしていきます。
クロスマのアドバイザーが学習塾の「譲渡」も経験しています。「買収」も経験していますので、双方の立場的なものがわかります。
恐らく学習塾の譲渡ではここが大きなポイントだろうと思うのは、
・売上高
・生徒数
・かかるコスト(ランニング)
・問合せ数
・講師が継続するかどうか
です。もちろん他にもありますが、複数経験してまとめるとこのようになります。
①売上高
これは、買い手がもっとも見る部分です。どんな案件でもそうですが、理念とか心意気とか、そういうエモーショナルな部分も大切ですが、やっぱり実利です。
これがナンバー1です。
②生徒数
学習塾や習いごと教室が本業なのですから、その本業における売上高の源泉はテキストを販売しているとか、他にオプショングッズ的なものがあれば別ですが、ほとんどがサービス提供に対しての対価を得るビジネスですから、直結するのは「生徒数」ということになります。
生徒数が居れば、現状の単価がイマイチ低め設定だ・・と感じても、それは運営次第で「単価」を上げることができますので、改善余地が最初から整っている!ということになるのです。
③コスト
ランニングです。月間費用がどのぐらいかかるのかがわかれば、売上と販売管理費から読みが出来ます。家賃、人件費という主たるコストと、支払い手数料や雑費などのコストも含めた全体像のコスト把握ができると、新オーナー側はイメージが成り立ってくるのです。
④問合せ件数
これは、意外に思うかもしれませんが、学習塾や習いごと教室は、名簿を見て片っ端から電話アプローチしたり、飛込セールスをする業態ではなく、どちらかと言うと「待ち」のスタンスです。問合せ待ちです。
もちろん、季節的なキャンペーン実施期間などは過去の見込み客にアプローチをする場面もあるとは思います。
しかし、問合せは「生もの」のようなもので、問合せをしてくる保護者は、何かしら子供の学習状況や将来このようになってほしいという要望要素などが「今」のものですから、問合せがあったらそのときが勝負どころみたいなものがあります。
よって、その数そのものが少ないよりは多いほうが生徒化できる可能性が変わってきます。
⑤講師・教室長が継続するかどうか
この要素も意外と大きいです。
アルバイト講師の採用コストは、成功報酬型であるほうが採用しやすいです。金額は2025年現在は、40,000円ぐらいです。
従いまして、さほど大きな採用コストになりませんので、不測の事態が発生しても対応できる場合が多いです。
(講師の育成は最短90分でできますので)
中には教室長も継続して運営してほしい意向を持つ買い手様もいらっしゃいます。
それはなぜかと言うと、「自走」になるからです。
そして、教室長として新たに人材を面接から確保する場合には、採用コストとしては、数万円から数十万円はかかると思った方がいいです。
その採用コストを考えても、買い手から見たら教室長の継続は非常にありがたい話なのです。
自走教室の最大のメリットは、教室長を新たに雇い入れる必要がなく、生徒や保護者にも影響がほぼない状態でオーナーだけがチェンジするという形式になるからです。
例えば、事務処理上の手続きとか、保護者宛の通知、FC契約であれば本部との契約、不動産契約、各種手続きの新規契約又は名義変更契約などやらなくてはならないことがあるとは言え、それが2ヵ月も3か月もかかるものはありません。
スムーズにいけば、全部一か月以内で終わってしまいます。
後は、買い手様が運営上困らないようなアフターサービス!
クロスマは学習塾・習いごと専門のM&Aサービスです。このアフターサービスには定評があり、尚且つ、驚くほど譲渡契約「後」がスムーズです。
まとめ
M&Aにおける会社や事業の売却は、売り手と買い手の双方にとって大きな転換点となります。
売却側がこれらの資料を網羅的に、かつ正確に準備することで、買い手は対象会社の価値を適切に評価し、安心して取引を進めることができます。
資料準備は時間と労力を要する作業ですが、M&Aを成功させるための重要な第一歩です。
そしてこれらの準備を一人でこなすのはとても大変です。
専門家のアドバイスも積極的に活用し、入念な準備を進めることをお勧めします。

学習塾・習いごと専門M&AサービスCROSS M&A(通称:クロスマ)は、業界ナンバー1の成約数を誇るBATONZの専門アドバイザーです。BATONZの私の詳細プロフィールはこちらからご確認ください。
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