塾の譲渡:理想の買い手を見つけるための戦略

2025年07月25日

譲渡

少子化や競争激化により、学習塾の経営環境は厳しさを増しています。長年情熱を注いできた塾を閉鎖するのではなく、新たな経営者に引き継ぐ「塾の譲渡」という選択肢を検討する方が増えています。

しかし、理想の買い手を見つけることは容易ではありません。単に資金力のある個人や法人を探すのではなく、あなたの築き上げてきた教育理念や生徒への想いを理解し、それをさらに発展させてくれるようなパートナーを見つけるための、具体的な戦略について考察していきます。


学習塾を買収、買おうと思っている個人や法人は、少なからず「学習塾運営」に興味がある人たちです。
まさか、塾を買収して、ペットショップに切り替えようという人はいないでしょう。

どんな人が学習塾運営に興味を抱くのか

今までの経験則から、学習塾運営に興味を抱く人たちは、以下のような人たちです。実は2つの群があります。

一つ目の群は、新しく学習塾を開校したいと思っている人たち(または法人)

・サラリーマンをやっていたが脱サラして事業を営んでみたいと思っている
・定年退職を機会にこれからセカンドキャリアとして塾オーナーをやってみようと思っている
・以前、または今塾講師をやっていて、マネジメント業務に興味をもった
・他の業種を個人事業主として経営していたが学習塾運営に興味を持った
・会社として他業種から学習塾運営を企画している

もう一つの群は、すでに学習塾を開校運営している人たち(または法人)

・個人事業主としてすでに1教室、または複数教室を運営しているオーナー
・法人ですでに複数教室を運営している経営者

つまり、新規での学習塾参入か、学習塾の買収によってさらに拡大を早めていこうと考える人たちです。

そう考えると、どちらも「学習塾の経営・運営」を目指してくるため、そう大きく理想からかけ離れた人が名乗りを上げてくるは考えにくい・・ということが理解できると思います。

売り手オーナーもM&Aに対して知識をもっていたほうが良い

とは言え、手放しで来るもの拒まず方式で、なんでも言いなりになるよりは、必要最小限でもいいので、M&A知識を持って臨んだほうが良いです。


少し長い文章ですが、以下を是非ご確認ください。

塾の譲渡を成功させるために不可欠な自己分析

買い手を見つける前に、

まずあなた自身の塾を深く理解することが不可欠です。売却価格を決めるためだけでなく、買い手に対してあなたの塾の価値を明確に伝えるためです。

塾の強みと弱みを客観的に評価する

あなたの塾は、地域の中でどのようなポジションを確立しているでしょうか?

成績向上に特化した進学塾でしょうか、それとも個別指導に力を入れているでしょうか。特定の科目に強みがありますか、それとも総合的な学習支援を提供していますか? これらの強みを明確にすることで、買い手はあなたの塾がどのようなニーズに応えているのかを具体的に把握できます。

一方で、弱みにも目を向ける必要があります。

例えば、特定の教科の講師が不足している、新しい学習システムへの対応が遅れている、施設の老朽化が進んでいるなど、改善すべき点があるかもしれません。

これらを正直に認識し、改善策や将来的な展望を提示することで、買い手はあなたの塾の潜在的な課題と成長の可能性を同時に評価できます。

弱みを隠すのではなく、それに対する具体的な改善計画を示すことで、買い手はあなたの経営手腕と誠実さを評価し、信頼感を抱くでしょう。


【実例(実話)】

老舗の教室を閉校するか、または譲渡するか、という瀬戸際的な案件がありました。なぜ瀬戸際だったかというと、すでに不動産会社に年度末で解約という申し入れをしていた後に、当方への相談があったからです。
オーナー様の本音は、解約、閉校で自分ですべてを処理するよりは、
残された時間の中で、誰か買ってくれる人がいれば・・・という部分でした。

たまたまタイミングよく興味を持ってくださった個人の方がいらっしゃいました。すぐに三者でzoom面談をしたのですが、思いのほか長時間の面談となりました。オーナー様はすでに経理関係に資料を用意してくれていて、尚且つ業績のダウンについても正直伝えてくれました。

そのとき、とても感心したのが、業績ダウンの分析をしっかりと示してくれたことです。
一つは、広告宣伝頻度が大きく減退した点。
もう一つは、方針の中で、顧客単価を上げようとするがあまり、市場性に合っていない戦略を続けてしまった点。

このように明確に示してくれ、尚且つ、広告宣伝をしっかりと実施していた年度と、顧客単価の無理な上昇措置をしていない年度の比較データを示してくれたのです。

このことで、買い手候補は一気に譲渡側のオーナー様に信頼を寄せていきました。
正直に、真摯に述べてくれたことが、結果良い結果を結び、成約につながったのは間違いありません。


独自の教育理念と文化を言語化する

あなたの塾が長年培ってきた教育理念や文化は、数値では測れない価値を持っています。例えば、「生徒一人ひとりの個性を尊重し、自ら考える力を育む」という理念や、「地域に根差した温かい学習環境を提供する」という文化など、具体的に言語化することで、事業の譲渡という所有権の移動という側面に「教育事業としての思想の継承という側面」が付与されるのです。

もしかしたら、買い手は「将来的には」それらの思想を異なるものに変更するかもしれません。

しかしながら、M&Aの話が進行している最中においては、これらの理念や文化は、理念に共感する買い手にとって大きな魅力となります。

単に利益を追求するだけでなく、教育に対する情熱やビジョンを共有できる買い手を見つけることで、譲渡後の塾の継続的な発展が期待できます。買い手は、あなたの塾の持つ独自の価値を理解し、それを引き継ぎ、さらに発展させていくことに意欲を持つでしょう。

財務状況と法的側面を整理する

譲渡を検討する上で、塾の財務状況を詳細に把握し、明確に提示することは必須です。

過去数年間の売上推移、利益率、生徒数の変動、人件費、家賃などの固定費、そして資産と負債の状況を詳細に整理します。これらのデータは、買い手が塾の価値を評価し、買収後の経営計画を立てる上で最も重要な情報となります。

場合によっては税理士やフランチャイズの塾であれば、SVなどと相談して使用しているシステムから、正確で透明性のある財務諸表を作成することが、スムーズな交渉の鍵となります。

また、法的側面も重要です。塾の設立に関する許認可、不動産の賃貸契約、従業員との雇用契約、生徒との契約、フランチャイズ案件の場合にはそのFC契約など、すべての法的文書を確認し、問題がないことを確認します。

特に、個人情報の取り扱いに関しては、プライバシー保護の観点から厳格な管理が求められます。これらの法的リスクを事前に洗い出し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることで、譲渡後のトラブルを未然に防ぎ、買い手にとって安心材料となります。


買い手の多様なタイプとそれぞれの誘引策

塾の買い手と一口に言っても、その背景や目的は多岐にわたります。それぞれのタイプを理解し、彼らが求めるものを提示することで、より効果的にアプローチできます。

個人事業主としての独立志望者

教育業界での経験を持ち、自分の理想とする塾を経営したいと考えている個人事業主は、あなたの塾の規模や特性によっては理想的な買い手となり得ます。彼らは通常、既存の顧客基盤や実績、そして運営ノウハウを求めています。

このような買い手に対しては、塾の生徒数推移、地域における評判、講師陣の質、そして独自の指導ノウハウを具体的に提示することが有効です。また、譲渡後のサポート体制や、経営に関するアドバイスを提供することで、彼らの独立への不安を軽減し、前向きな検討を促すことができます。彼らはしばしば、あなたの塾が持つ「想い」や「教育理念」に共感し、それを引き継ぎたいという強い意欲を持っているため、感情的なつながりを築くことも重要です。

教育事業への新規参入を狙う異業種法人

異業種から教育事業への参入を目指す法人は、既存のビジネスモデルを拡大する一環として塾の買収を検討します。彼らは通常、安定した収益基盤、効率的な運営体制、そして将来的な成長戦略の可能性を重視します。

彼らに対しては、塾の財務状況の健全性、効率的な運営フロー、市場における競合優位性、そして地域におけるブランド力を強調する必要があります。また、あなたの塾が持つ教育コンテンツや指導メソッドが、彼らの既存事業とどのようにシナジーを生み出すかを具体的に提案することで、彼らの投資意欲を高めることができます。例えば、彼らの持つIT技術を塾の運営に活用したり、マーケティングノウハウを共有したりといった具体的な提携案を提示することも有効です。

事業拡大を目指す同業他社

既存の学習塾が事業規模を拡大するために、あなたの塾の買収を検討するケースもあります。彼らは顧客基盤の拡大、新たな地域への進出、あるいは特定の教育コンテンツやノウハウの獲得を目的にしています。

同業他社に対しては、あなたの塾が持つ地域における強固な顧客基盤、特定の科目における専門性、あるいは優秀な講師陣の存在が大きな魅力となります。また、彼らの既存事業との重複を避けつつ、どのように相乗効果を生み出すかを具体的に提案することが重要です。

例えば、あなたの塾が持っている地域密着型の強みと、彼らの持つ広範なネットワークを組み合わせることで、より大きな市場を創造できるといった提案は、彼らの関心を引くでしょう。


買い手を見つけるための現実的なアプローチ

理想の買い手は、待っているだけでは現れません。
能動的に、そして戦略的に見つける必要があります。

M&A仲介会社の活用と選び方

多くの塾経営者は、M&Aに関する専門知識や買い手とのネットワークを持っていません。そこで、M&A仲介会社を活用することは、効率的かつ安全に買い手を見つけるための有効な手段です。

M&A仲介会社は、買い手候補のリストアップ、条件交渉のサポート、デューデリジェンスの進行管理、そして契約締結まで、譲渡プロセス全体を支援してくれます。

しかし、すべての仲介会社があなたの塾の譲渡に適しているわけではありません。

重要なのは、教育業界に精通しているか、実績が豊富か、そして信頼できる担当者がいるかという点です。複数の仲介会社に相談し、彼らの提案内容、手数料体系、そして担当者の人柄を見極めて選択しましょう。特に、あなたの塾の規模や特性に合った専門性を持つ仲介会社を選ぶことが成功への近道ですし、そこから適切な買い手を見つける確率も高まります。

事業承継・譲渡マッチングサイトの活用

近年では、オンライン上で事業承継や譲渡のマッチングを行うサイトも増えています。これらのサイトは、M&A仲介会社に比べて手数料が低い傾向にあり、より多くの買い手候補に情報を届けられる可能性があります。

ただし、

オーナー自身で買い手との初期交渉や情報開示の管理を行う必要があるため、ある程度の知識と手間が必要です。

サイトに登録する際は、塾の情報を正確かつ魅力的に記載し、プライバシー保護に配慮しながら情報開示の範囲を慎重に設定することが重要です。また、興味を示した買い手候補に対しては、迅速かつ丁寧に対応することで、信頼関係を築き、次のステップへと進めることができます。いずれにしてもこの方式は「直接交渉」になります。直接交渉とアドバイザーによる交渉では大きな違いが生じてくる可能性がありますので、ご自身のスタイルに合ったものを考えていくとよいでしょう。

地域社会とのつながりを活用する

意外に思われるかもしれませんが、地域社会とのつながりも買い手を見つける上で非常に有効な手段となり得ます。

例えば、地域で評判の学習塾の経営者や、教育に熱心な保護者、あるいは地域活性化に意欲的な企業などが、あなたの塾の譲渡に関心を持つ可能性があります。

地域の商工会議所や異業種交流会、あるいは地元の金融機関に相談してみるのも良いでしょう。

直接的な買い手が見つからなくとも、潜在的な買い手を紹介してくれる人脈が広がる可能性があります。ただし、情報の取り扱いには細心の注意を払い、譲渡の意向が不用意に広まらないように配慮することが重要です。


交渉と譲渡に向けた準備

買い手候補が見つかったら、いよいよ具体的な交渉に入ります。この段階での準備と対応が、スムーズな譲渡を実現する鍵となります。

塾の評価額を適正に算出する

買い手が最も関心を持つのは、やはり譲渡価格です。塾の評価額は、財務状況、生徒数、地域での評判、将来的な成長性、そして所有する資産(不動産や設備など)を総合的に考慮して算出されます。

専門家であるM&Aアドバイザーや会計士に依頼し、複数の評価方法(収益還元法、DCF法、純資産法など)を用いて、客観的かつ適正な評価額を算出してもらいましょう。

また、買い手との交渉において、この評価額の根拠を明確に説明できるよう準備しておくことが重要です。安易に低く見積もるのではなく、あなたの塾が持つ真の価値を理解してもらい、適切な価格での譲渡を目指しましょう。

秘密保持契約(NDA)の締結

買い手候補との具体的な情報交換を行う前に、極力、秘密保持契約(NDA)を締結しましょう。これは、あなたの塾の財務状況や生徒情報、運営ノウハウといった機密情報が外部に漏れるのを防ぐための重要な契約です。

NDAは、買い手候補があなたの塾の情報を不正に利用したり、競合他社に漏洩したりすることを法的に禁じます。弁護士と連携し、あなたの塾の状況に合わせた適切なNDAを作成し、締結することが不可欠です。これにより、安心して詳細な情報を提供し、交渉を進めることができます。

デューデリジェンスへの対応

デューデリジェンス(DD)とは、買い手があなたの塾の資産、負債、契約、法務、税務、人事など、あらゆる側面について詳細に調査するプロセスです。これは、買い手がリスクを評価し、最終的な買収の意思決定を行う上で非常に重要なステップです。

このプロセスにおいては、買い手からの質問に対して誠実かつ迅速に回答し、必要な資料を正確に提供することが求められます。

財務資料、契約書、生徒名簿、講師の雇用契約書など、求められる書類は多岐にわたります。

事前にこれらの書類を整理し、いつでも提示できる状態にしておくことで、スムーズなデューデリジェンスを進行させることができます。

もし不都合な事実が判明した場合でも、隠蔽するのではなく、正直に開示し、その対応策や影響について説明することで、買い手との信頼関係を維持できます。


譲渡後の考慮事項

譲渡は、単なる売買契約の締結で終わりではありません。あなたの塾が今後も地域社会に貢献し続けるために、譲渡後にも考慮すべき点がいくつかあります。

従業員や生徒への配慮

長年あなたと共に働いてきた従業員や、あなたの塾で学んできた生徒たちは、譲渡によって大きな影響を受ける可能性があります。新しい経営体制への移行に伴う不安を軽減するため、従業員の雇用継続や労働条件、生徒の学習環境の変化について、買い手との間で事前にしっかりと協議し、明確な方針を定めておくことが重要です。

従業員に対しては、新しい経営者の方針や、彼らの役割について丁寧に説明し、不安を解消するよう努めましょう。生徒や保護者に対しては、譲渡後も教育の質が維持されること、あるいはさらに向上することなどを伝え、安心感を与えることが大切です。

円滑な引き継ぎは、塾の評判を維持し、譲渡後の安定した運営を確実にする上で不可欠です。

引継ぎ期間とサポート体制

譲渡契約締結後も、一定期間の引き継ぎ期間を設けることが一般的です。この期間中に、新しい経営者に対して塾の運営ノウハウ、生徒の情報、地域との関係、講師との連携など、具体的な業務内容を詳細に引き継ぎます。

あなたの経験と知識は、新しい経営者にとってかけがえのない財産です。

引継ぎ期間を設け、積極的にサポートすることで、譲渡後の混乱を最小限に抑え、塾の円滑な運営を助けることができます。また、必要に応じて、譲渡後も一定期間、顧問として関わるなど、柔軟なサポート体制を検討することも有効です。あなたの「想い」を新たな経営者に託し、塾の歴史と価値が引き継がれるよう、最後まで責任を持って関与することが、成功する譲渡の証となるでしょう。

私たちCROSS M&A (クロスマ)は、アフターサービスにとても大きな力を注いでいます!
譲渡後に買い手は引き継いだ塾を即時運営していく必要があります。
譲渡されたオーナーとのやり取りがより頻繁になり、各種事務手続きを進めていかなくてはなりません。
何かと混乱しやすい譲渡「後」に力を入れているのは、自分自身の経験に基づくものです。
譲渡前、譲渡交渉期間、譲渡後、この3段階で言えば、もっとも重要なのは譲渡後です。

譲渡後のPMIの重要性

まとめ:あなたの「想い」を託す譲渡のために

塾の譲渡は、単なる事業の売却ではありません。あなたが長年築き上げてきた教育の場、生徒や保護者との信頼関係、そして従業員との絆を、新たな経営者に託す、言わば「事業承継」としての側面を強く持ちます。

買い手を見つけるプロセスは、決して容易ではありません。

しかし、あなたの塾の持つ独自の価値を深く理解し、それを明確に言語化することから始めれば、理想の買い手を見つける道筋が見えてきます。

そして、専門家の助けを借りながら、慎重かつ戦略的に交渉を進めることで、あなたの「想い」を継承し、さらに発展させてくれるパートナーとの出会いが現実のものとなるでしょう。あなたの教育への情熱が、新たな形で受け継がれ、地域社会に貢献し続けることを信じて、一歩を踏み出してください。

BATONZ×CROSS M&A



CROSS M&A(クロスM&A)は学習塾・習いごと専門のM&Aサービスで、業界ナンバー1の成約数を誇るBATONZの専門アドバイザーです。BATONZの私の詳細プロフィールはこちらからご確認ください。
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