何故、中小企業庁はPMIを重視しているのか?学習塾におけるPMIについて

重要なPMI
事業譲渡を終えた「直後」から
いかに新オーナーがランディングできるか

中小企業庁がなぜPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を重視しているのか。

そして、教育現場である学習塾において、そのプロセスがいかに重要となるのか。

本稿では、国の施策の背景から、塾経営における具体的なPMIの要諦まで詳細な解説を行います。


第1章:中小企業庁がPMIを強力に推進する背景

近年、中小企業庁の公表資料やガイドラインにおいて「PMI」という言葉が頻繁に登場するようになりました。

PMIとは、M&A(合併・買収)が成立した後に、統合後の組織を効果的に運営し、シナジー(相乗効果)を最大化させるための統合プロセスを指します。

1. 「成約」がゴールではないという危機感

かつての中小企業M&Aは、買い手と売り手を結びつける「マッチング」に重点が置かれていました。

しかし、マッチングが成立しても、その後の統合に失敗し、従業員の離職や顧客離れを引き起こすケースが散見されました。

中小企業庁は、M&Aを単なる「存続の手段」ではなく「成長の手段」に変えるためには、成約後のPMIこそが本質であると定義し直しています。

2. 第三者承継の急増と「経営の連続性」

日本の中小企業における後継者不在率は依然として高く、親族外承継や第三者による買収が一般的になりつつあります。

この場合、前経営者と新経営者の間に血縁関係や長年の信頼関係がないため、経営理念や業務フローの摩擦が起きやすくなります。

国は、この摩擦を最小限に抑え、企業の生産性を維持・向上させるために、PMIの標準化を急いでいるのです。

3. 日本経済の底上げと生産性向上

中小企業庁の狙いは、廃業防止だけではありません。

意欲ある買い手企業が、買収した企業(譲受企業)と自社のリソースを融合させ、新たな付加価値を生むことを期待しています。

PMIが適切に行われれば、IT化の促進、コスト削減、販路拡大が実現し、結果として日本経済全体の底上げに繋がります。


第2章:学習塾業界におけるM&Aの現状

学習塾業界は、現在進行形でM&Aが極めて活発な業界の一つです。

少子化による競争激化、指導者の高齢化、そしてICT教育への対応コスト増大など、中小規模の塾が単独で生き残ることが難しくなっている背景があります。

1. 学習塾M&Aの特徴

学習塾の資産は、建物や設備以上に「生徒(顧客)」「講師(人材)」「独自のカリキュラム(ノウハウ)」という無形資産に集中しています。そのため、製造業などの有形資産が多い業種に比べ、M&A後の「人の心」や「ソフト面」の統合が成否を分ける決定的な要因となります。

2. 失敗の典型パターン

学習塾のM&Aでよくある失敗は、買収後に新しい運営方針を強引に押し付け、エース級の講師が退職してしまうケースです。

講師が辞めれば、それに付随して生徒も退会します。

PMIを軽視した結果、箱(教室)だけが残り、中身(人と生徒)が消えてしまうという事態を避ける必要があります。


第3章:学習塾におけるPMIの3大要素

学習塾のPMIを成功させるためには、以下の3つの統合を同時並行で進める必要があります。

1. 経営・業務の統合(ハードPMI)

まずは、バックオフィス業務の共通化です。

・月謝の請求システムや給与計算の統合
・勤怠管理のデジタル化
・報告書や面談記録のフォーマット統一


これらは初期段階で完了させる必要があります。

特に、これまでアナログで運営していた塾をIT化する場合、現場の反発を招かないよう、利便性を強調した丁寧な説明が求められます。

2. 理念・文化の統合(ソフトPMI)

学習塾には、それぞれの「教育方針」があります。

・「厳しい指導で難関校を目指す」塾
・「寄り添う指導で勉強嫌いを克服する」塾


このカラーが異なる塾同士が統合する場合、どちらの理念を優先するのか、あるいは新しい第3の理念を作るのかを明確にしなければなりません。

現場の講師が「自分のやりたい教育ができなくなった」と感じた瞬間、PMIは失敗に向かいます。

3. 生徒・保護者への信頼継続(カスタマーPMI)

学習塾にとっての顧客は生徒と保護者です。

経営母体が変わることは、保護者にとって不安材料でしかありません。

・指導内容が変わるのか
・授業料が変わるのか
・担当講師が変わるのか


これらの不安に対し、PMIのプロセスの中で、早い段階からプラスのメッセージを発信し続ける必要があります。「大手グループに入ったことで、より質の高い模試や教材が提供できるようになった」というメリットを提示することが肝要です。


第4章:成功するPMIの具体的プロセスとスケジュール

学習塾の運営サイクル(年度更新)に合わせたPMIのスケジュール管理が重要です。

1. Day 1(成約当日)までの準備

買収が決定してから当日までに、キーマンとなる教室長や看板講師との個別面談を済ませておくことが理想です。彼らの不安を取り除き、新しい体制での役割を提示することで、離職を未然に防ぎます。

2. 最初の100日(100日プラン)

M&Aの世界では、最初の100日が勝負と言われます。

・現場の徹底的なヒアリング
・小規模な「成功体験」の創出(例:古くなった備品の新調、清掃の徹底)
・新しい評価制度の提示


「この会社に買収されて良くなった」という実感を現場に持たせることが、その後の大きな改革を受け入れやすくする土壌となります。

3. 年度末の大型改訂

学習塾の場合、学期途中の大幅な変更は混乱を招きます。カリキュラムの統合やブランド名の変更などの大きな変化は、春期講習や新年度に合わせて実施するのが鉄則です。

このタイミングに向けて、PMIチームは綿密な準備を進めます。


第5章:学習塾のPMIにおける「人材」の重要性

学習塾は究極の「労働集約型産業」です。
PMIの成否は、講師のモチベーション管理に集約されると言っても過言ではありません。

1. エース講師の流出防止

中小塾には、その地域で絶大な信頼を得ている「名物講師」がいることが多いです。

彼らが離脱することは、売上の大部分を失うことと同義です。
彼らに対しては、役職の付与や待遇の改善だけでなく、教育に対する想いを尊重する姿勢を見せることが、金銭以上の繋ぎ止め策になります。

2. 採用コストの削減と教育の平準化

PMIが成功し、グループ全体での採用・研修体制が整えば、一教室あたりの採用コストは下がります。

また、優れた指導法を共有することで、属人的だった指導品質を平準化できることもPMIの大きなメリットです。


事例(実話)コーナー

【実例(実話)】

●●●ということをやっていないと、リスクが高まりますよという形で上に書きましたが、要は、●●●ということを「やっていれば」大きな問題は起こりません。
やるべきことをちゃんとやること!これが重要です。

それは何かというと、

①保護者への丁寧な連絡と説明
②講師への丁寧な連絡と説明
③売主(旧オーナー)または仲介会社の担当のアフターフォロー

この3つです。

これをやらなければ、問題があちこちから起こります。逆に常識の範疇でしっかり行っておけば、経験上、ほとんどトラブルは起こりません。

CROSS M&Aは、特に保護者向けの挨拶文面(こうやれば保護者が納得してくれる!という内容です)とアフターフォローに力を入れます。
↓ ↓ ↓

参考記事:学習塾・習いごと教室のM&A成功の鍵はPMIにあり!クロスM&Aが提供する「安心の譲渡」とは?



第6章:中小企業庁のガイドラインをどう活用するか

中小企業庁が策定した「中小PMIガイドライン」には、経営者が陥りがちな落とし穴が網羅されています。

1. プレPMIの視点

ガイドラインでは、M&Aの交渉段階(プレPMI)から統合後のことを考えるよう推奨しています。

学習塾においても、デューデリジェンス(資産査定)の際に、数字だけでなく「講師の意識調査」や「教室の雰囲気」を直接確認することが、後のPMIをスムーズにします。

2. 伴走支援の活用

中小企業庁は、PMIの専門家(PMI支援機関)の活用を推奨しており、補助金制度なども整備しています。自社だけで統合を進めるのが難しい場合、こうした外部の知見を借りることも、成功への近道です。


第7章:学習塾業界の未来とPMI

今後、学習塾業界はさらに再編が進みます。単なる「生き残り」のための合併ではなく、PMIを通じて「教育の質」を向上させ、地域社会に貢献し続ける組織を作ることが求められています。

1. デジタル・トランスフォーメーション(DX)の加速

PMIを通じて、学習履歴のデータ化やAI教材の導入を加速させることは、少子化における差別化の鍵となります。統合によって得た資金力とリソースを、こうした未来への投資に向けるべきです。

2. 地方の教育格差の是正

都市部の塾が地方の塾を譲り受けるケースが増えています。適切なPMIにより、都市部の高度な受験情報や教育コンテンツが地方へ届けられるようになれば、それは日本の教育格差の是正という大きな社会的意義を持ちます。


結論:PMIは「新しい家族」の形を作るプロセス

中小企業庁がPMIを重視しているのは、M&Aが単なる資本の移動ではなく、日本の宝である中小企業の「価値」を次世代へ繋ぐための唯一の道だからです。

学習塾におけるPMIは、生徒の成長を願う想いと、それを支える講師の情熱を、より大きな枠組みの中で守り抜く作業です。制度やシステムの統合という「冷たいPMI」だけでなく、心と志を合わせる「温かいPMI」を両立させること。それこそが、学習塾経営者が今、最も向き合うべき課題と言えるでしょう。

M&Aは成約がスタート地点です。そこから始まる長い統合の道のりを、ガイドラインを道標にしながら、誠実に、かつ戦略的に歩んでいくことが、次世代の教育を創る一歩となります。

BATONZ×CROSS M&A

学習塾・習いごと専門M&AサービスCROSS M&A(通称:クロスマ)は、業界ナンバー1の成約数を誇るBATONZの専門アドバイザーです。BATONZの私の詳細プロフィールはこちらからご確認ください。
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