公立高校受験の「競争率低下」が示す教育の未来と社会の変化

各都道府県の公立高校 実質倍率について

各都道府県の公立高校の一般入試の実質倍率は、通常、合格発表後に各教育委員会から発表されます。そのため、最新の入試(例:2025年度入試)の倍率は、入試が行われた年の3月頃に確定情報が出ていることが多いです。

都道府県によって入試制度や倍率の公表方法が異なりますので、今回は首都圏として千葉県、埼玉県、神奈川県の事例を最初に見て頂きます。


千葉県公立高校入試 実質倍率の推移(過去約10年間)

年度(西暦)年度(和暦)実質倍率(全日制全体)前年度からの増減
2025年令和7年度1.20倍±0.00
2024年令和6年度1.20倍-0.01
2023年令和5年度1.21倍+0.01
2022年令和4年度1.20倍-0.01
2021年令和3年度1.21倍-0.02
2020年令和2年度1.23倍+0.01
2019年平成31年度1.22倍+0.02
2018年平成30年度1.20倍±0.00
2017年平成29年度1.20倍+0.01
2016年平成28年度1.19倍データなし

注釈:

  • 上記は千葉県公立高校全日制課程全体の一般入学者選抜における実質倍率です。
  • 2023年度以降は、公立高校の定員削減の影響により、志願倍率(最終倍率)が上昇傾向にある一方で、実質倍率は3年連続で1.20倍前後を維持しています。

推移の傾向

過去10年の推移を見ると、千葉県公立高校入試の全日制全体の実質倍率は、1.19倍から1.23倍の間の非常に狭い範囲で変動しており、大きな変動は見られず安定していると言えます。

  • 長期的な安定: 実質倍率は概ね1.20倍前後で推移しており、入試の難易度が全体として極端に変動しているわけではありません。
  • 直近の傾向 (2023年〜2025年):
    • 生徒数の減少に伴う募集定員の削減が進んでいますが、志願者数の減り方が緩やかであるため、志願倍率自体は上昇傾向にあります。
    • しかし、定員割れの学校が減り、合格者数が増加した結果、実質倍率は近年1.20倍で安定しています。これは、不合格者数が前年度より減少したことにも現れています。

特定の高校や学科(特に人気のある普通科や専門学科)では、実質倍率が2倍を超えるなど、全体の傾向とは大きく異なる場合があります。

この10年・・・そんなに変わらないのだな・・・そう思われるかもしれませんが、背後では学校そのものの募集人員が減っている事実を見逃してはいけません。

神奈川県公立高校入試 実質倍率の推移(過去約10年間)

年度(西暦)年度(和暦)実質倍率(全日制全体)前年度からの増減
2025年令和7年度1.09倍+0.02
2024年令和6年度1.07倍-0.01
2023年令和5年度1.08倍+0.01
2022年令和4年度1.07倍±0.00
2021年令和3年度1.07倍-0.01
2020年令和2年度1.08倍±0.00
2019年平成31年度1.08倍+0.01
2018年平成30年度1.07倍+0.02
2017年平成29年度1.05倍-0.01
2016年平成28年度1.06倍データなし

注釈:

  • 上記は神奈川県公立高校全日制課程全体の一般入学者選抜(学力検査)における実質倍率です。
  • 実質倍率は「受検者数 ÷ 合格者数」で算出されます。

推移の傾向と特徴

  • 安定した低めの倍率: 全体として1.05倍から1.09倍と推移しており、不合格になる生徒の割合が千葉県(約1.20倍)と比べて低い水準で安定しています。
  • 「定員割れ」の学校の存在: この低い全体倍率の背景には、定員割れとなっている学校が多数存在する実態があります。神奈川県の入試制度では、定員割れの学校では多くの受検者が合格となるため、全体の倍率が低く抑えられる傾向があります。
  • 人気校と不人気校の二極化: 全体倍率が安定している一方で、横浜翠嵐高校湘南高校など、いわゆるトップ校や人気のある学科では、2倍前後の高い実質倍率となることが多く、学校間での倍率の二極化が進んでいます。

神奈川県はCROSS M&Aでも案件依頼が比較的多いです。
皮膚感覚で言うと、塾の売却希望が増えている県です。後継者不在や売上などの問題から売却案件が増加しているのだと思われます。

埼玉県公立高校入試 実質倍率の推移(過去約10年間)

年度(西暦)年度(和暦)実質倍率(全日制全体)前年度からの増減
2025年令和7年度1.16倍+0.02
2024年令和6年度1.14倍+0.01
2023年令和5年度1.13倍-0.01
2022年令和4年度1.14倍-0.02
2021年令和3年度1.16倍+0.01
2020年令和2年度1.15倍±0.00
2019年平成31年度1.15倍+0.02
2018年平成30年度1.13倍-0.01
2017年平成29年度1.14倍±0.00
2016年平成28年度1.14倍データなし

注釈:

  • 上記は埼玉県公立高校全日制課程全体の一般入学者選抜における実質倍率です。
  • 実質倍率は「受検者数 ÷ 合格者数」で算出されます。

推移の傾向と特徴

  • 安定基調: 全体的な実質倍率は、この10年間で1.13倍から1.16倍の間で非常に安定しており、全体として極端な倍率の上昇や低下は見られません。
  • 学力検査の1回化 (2021年度以降):
    • 2021年度以降、入試制度が一本化されたことで、学校ごとの倍率変動が目立つようになりました。
    • 特に人気のある難関校(例:浦和高校、市立浦和高校、大宮高校など)では、1.4倍から1.6倍といった非常に高い実質倍率が記録されることが多く、倍率の二極化が顕著です。
  • 直近の傾向 (2025年度): 全体倍率は前年よりわずかに上昇し、1.16倍となっています。これは、受験者数の増加と合格者数の減少が影響していると考えられます。

上記で、千葉県、神奈川県、埼玉県のデータを示しましたが、この3県の中で比較的学習塾が元気なのは、「埼玉県」と「千葉県の東京寄り」です。

埼玉県の浦和、大宮地区、千葉県の千葉市、浦安地区は学習(勉強)についての温度感がとても高い地域です。

近年、一部の公立高校入試において、受験倍率の低下、さらには定員割れの発生が顕著になっています。

これは単なる一時的な現象ではなく、少子化という不可逆的な社会構造の変化と、それを取り巻く教育環境の多様化が絡み合った結果と言えます。


ちなみに・・・・

中学受験における偏差値50近辺の学校の倍率は、学校や入試日、地域によって幅がありますが、平均的には以下の範囲で推移することが多いです。

中学受験 偏差値50近辺の学校の倍率傾向

偏差値帯 (※)倍率の目安 (実質倍率)
50前後1.5倍 〜 3.0倍

※ここでの偏差値は、大手模試(四谷大塚、SAPIX、首都圏模試など)の合格可能性50%〜80%ラインの目安としています。


倍率の傾向と変動要因

偏差値50近辺の学校では、特に受験者数が集まりやすい傾向があるため、倍率がこの範囲に収まることが多くなります。

1. 平均的な倍率(1.5倍〜2.0倍)

多くの学校のメインの入試日(2月1日など)では、1.5倍〜2.0倍程度に落ち着きます。この倍率であれば、偏差値50の学力を持つ受験生にとって、合格の可能性が十分にあるラインとなります。

2. 倍率が高くなるケース(2.5倍〜3.0倍超)

以下のような要因がある学校や入試回では、倍率が上昇しやすいです。

  • 人気が集まる学校:
    • 大学付属校進学実績が急上昇している学校。
    • 立地が良く(主要駅から近いなど)、学費が比較的安い学校。
    • 午後入試特待生入試など、併願しやすい入試回。
  • 「チャレンジ校」としての受験:
    • この偏差値帯の学校は、より難易度の高い学校を目指す受験生の安全校(滑り止め)として受験される一方、偏差値40台後半の受験生にとってはチャレンジ校となるため、受験生が厚くなります。
  • 定員が少ない入試回:
    • 2回目以降の入試や、募集人数が少ない**特殊な入試(例:算数一科目入試)**では、倍率が跳ね上がる傾向があります。

3. 倍率が低くなるケース(1.5倍未満)

  • 入試日程の終盤(2月3日以降など)や、併願校として人気が集中しない日程の入試回では、倍率が下がる場合があります。


中学受験における「偏差値50」の注意点

公立高校入試の偏差値50とは意味合いが異なります。

  • 「上位層の中の平均」: 中学受験をする小学生は、一般的に全小学生の上位約18%の層です。そのため、中学受験模試で偏差値50というのは、この上位層の中での平均を意味し、全小学生の中では非常に優秀なレベル(概ね全小学生の偏差値で63相当)となります。

  • 倍率と合格可能性:
    • ある試算によると、倍率が1.5倍であれば、偏差値50で約69%の合格可能性がありますが、倍率が3.0倍になると、偏差値50での合格可能性は約29%にまで下がるとも言われています。

したがって、

偏差値50付近の学校は、倍率の変動が合否に直結しやすいため、過去の倍率推移をしっかり確認することが重要です。


それでは再度 公立高校に目を向けて参りましょう。

Ⅰ. 公立高校受験倍率の現状と推移

多くの都道府県で公立高校の全日制課程全体の倍率は、長期的に見て低下傾向にあります。

特に地方圏や都心部から離れた郊外地域の中堅・下位校でその傾向は顕著であり、「定員割れ」を起こす学校も増加しています。

ただし、この傾向はすべての公立高校に当てはまるわけではありません。

特定の人気進学校や、特色ある学科を持つ専門学科、近年人気が高まっている新しい教育体制を導入した高校などでは、依然として高倍率が維持されています。

この「二極化」の進行こそが、

受験倍率低下という現象を語る上で重要なポイントとなります。

全体の競争率が低下する一方で、特定のブランド校や魅力的な教育を提供する学校への志願者の集中が進んでいるのです。

用語の再確認:志願倍率と実質倍率

受験倍率には、「志願倍率」(募集定員に対する出願者数の割合)と「実質倍率」(募集定員に対する受験者数の割合、または合格者数に対する受験者数の割合)があります。

一般的にメディアで報じられるのは志願倍率ですが、実際に受験者が競争に晒される度合いを示すのは実質倍率です。倍率低下を語る際は、この実質倍率の低下も同時に進行している点が重要です。


Ⅱ. 競争率低下を招く主要な要因

公立高校の競争率低下は、複数の要因が複合的に絡み合って生じています。

1. 少子化による受験人口の絶対数減少

最も根本的な要因は、15歳人口、すなわち中学校卒業者数(受験者層)の減少です。公立高校の募集定員は、基本的にこの人口動態に合わせて調整されますが、定員削減が追いつかない、あるいは地域によっては生徒の絶対数の減少スピードが速く、結果的に多くの高校で定員に対する志願者が減少し、倍率低下に繋がっています。

2. 私立高校の「無償化」・学費負担軽減

国の高等学校等就学支援金制度の拡充や、各自治体独自の私立高校授業料補助制度により、私立高校の学費実質無償化が進んでいます。

かつて「学費が高い」という理由で公立高校を選んでいた層が、経済的な障壁が低くなったことで、教育内容や立地、進学実績などを重視し、積極的に私立高校を選択するケースが増加しています。

特に、特進クラスを設けるなど大学進学実績に力を入れる私立高校が人気を集めています。

3. 公立高校の「特色」に対する意識の変化

保護者や生徒の教育に対する価値観が多様化しています。従来の公立高校の画一的な教育よりも、以下のような「特色」を持つ学校が選ばれる傾向が強まっています。

  • キャリア教育や探究学習に力を入れている。
  • 海外留学や国際交流プログラムが充実している。
  • ICT教育の導入が早く、設備が充実している。

特色が見えにくい、あるいは地域のニーズに合わなくなった公立高校は、志願者を獲得しにくくなっています。

4. 「隔年現象」などの心理的要因

前年度の倍率が高かった高校は、受験生から敬遠され、翌年の倍率が低下する「揺り戻し(隔年現象)」が多くの公立高校で起こります。

受験生の安全志向も相まって、倍率の高い高校から低い高校へ出願先を分散させる動きが、全体の倍率の変動に影響を与えています。


Ⅲ. 競争率低下が教育現場と受験生に与える影響

競争率の低下は、一見すると「合格しやすくなる」というメリットをもたらしますが、その裏側には複雑な問題や変化が含まれています。

1. 受験生への影響:「安易な志望校選択」の危険性

倍率が低い、特に定員割れの高校では、「努力しなくても合格できる」という誤った安心感が生まれる可能性があります。

しかし、倍率が1.0倍未満でも、高校側が定める合格最低点に達していない場合や、受験生の内申点・学力レベルが極端に低い場合は不合格となるケース(点数足切り)は存在します。

競争率が低いからといって、受験勉強をおろそかにすることは大きなリスクを伴います。

2. 高校への影響:「学校間格差の拡大」と「教育環境の維持」

志願者が集中する人気校と、定員割れが常態化する不人気校との間で、学校間格差が拡大します。

定員割れ校では、クラス数の減少、教員の配置数の減少、部活動の縮小、予算の制約など、教育環境の維持が困難になる場合があります。

これにより、さらに学校の魅力が低下し、翌年度の倍率が下がるという負のスパイラルに陥るリスクが高まります。

3. 公立高校の「再編・統合」の加速

受験倍率の長期的な低下と定員割れの増加は、都道府県レベルでの公立高校の再編・統合を加速させています。

特に地方では、少子化が限界に達し、地域に一つしか高校が存在しなくなる「一地域一校」の形に向かう自治体も出てきています。

この再編は、地域の教育資源を集中させ、学校の魅力を高める側面もありますが、生徒の通学負担増などの課題も伴います。


Ⅳ. まとめ:競争率低下時代の公立高校の未来

公立高校の受験競争率低下は、少子化と私立無償化という大きな波が作り出した、避けて通れない現実です。

これは、公立高校が従来の「地域に存在するから選ばれる」という立ち位置から、「魅力的な教育を提供するから選ばれる」という競争的な環境へシフトすることを意味します。

今後、公立高校が生き残っていくためには、単なる進学実績向上だけでなく、以下のような「特色化」と「魅力向上」への取り組みが不可欠です。

  • 教育課程の柔軟化: 生徒の興味・関心に応じた多様な選択科目の設置や、高大連携の強化。
  • 地域連携の深化: 地域企業や自治体と連携した課題解決型学習(PBL)の導入。
  • 校舎・設備の刷新: 最新のICT環境の整備や、魅力的な学習スペースの提供。
  • 情報発信の強化: 各学校の教育内容や特色を、より積極的に、透明性を持って受験生や保護者に伝える努力。

競争率低下は、公立高校が自らの存在意義と提供価値を問い直し、質的な変革を遂げるための好機と捉えるべきでしょう。受験生にとっても、倍率の数字だけに惑わされるのではなく、自らの目標や適性に基づいて、各高校の教育内容を吟味し、主体的に進路を選択する時代へと変化していると言えます。

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