M&Aを検討している方へ、法務、労務、財務、税務の4つの観点から、買収前に確認すべきリスクとチェックポイントを解説

2025年08月09日

買収

法務:M&A成功の土台を築く株主の確認とリスク管理

M&A(合併・買収)は、企業の未来を左右する重要な決断です。

その成功の第一歩は、買収対象企業の「所有者」を正確に把握することにあります。株式会社の所有者は株主であり、彼らが持つ権利を正しく理解し、確認することが、法的なリスクを回避する上で最も重要となります。

もしM&A後に、別の人物が「真の株主は私だ」と主張した場合、買収に支払った対価を失うだけでなく、その人物が新しい株主として会社に居座り続けるという最悪の事態も想定されます。こうしたリスクを回避するためには、徹底した法務デューデリジェンス(詳細調査)が不可欠です。

株主確認のためのチェックポイント

中小企業の多くでは、株主に関する記録が不完全であったり、最新の状態に更新されていなかったりするケースが散見されます。そのため、以下に挙げる複数の資料を多角的に確認し、総合的な判断を下すことが求められます。

  • 株主名簿 株主名簿は、会社の株主と、その所有株式数、取得年月日などを記録する基本的な資料です。しかし、中小企業では作成すらされていない、あるいは作成されていても古い情報が更新されていないことが多々あります。これが、法務デューデリジェンスにおける最大の課題の一つです。

  • 法人税申告書の別表 税務署に提出されるこの書類には、同族会社の判定を目的として、主要な株主情報が記載されています。税務申告時に必ず作成されるため、比較的入手しやすい資料です。しかし、全ての株主が記載されているとは限らず、また株主が変わっても前期の情報をそのまま流用しているケースもあるため、他の資料と照らし合わせる必要があります。

  • 株券の現物確認 会社の定款や登記簿謄本で株券発行会社であることが判明した場合、株券の現物確認は極めて重要な手続きとなります。株券が発行されていれば、その所持者こそが正当な株主であると推定されるからです。もし、現在の経営者が株券を所持していない場合、第三者が株券を所有している可能性があり、これは非常に高いリスクをはらんでいます。株券不発行会社への変更手続きが行われていれば問題ありませんが、そうでなければ慎重な対応が必要です。

  • 株式譲渡契約書・贈与契約書 株式の売買や贈与が行われた際に作成されるこれらの契約書は、取引の事実を証明する強力な証拠となります。特に、売り手と買い手の署名・捺印がある場合、その証拠力はさらに高まります。

  • 株式譲渡承認の取締役会議事録 上場企業と異なり、中小企業の株式は自由に譲渡できない非公開会社であることが一般的です。株式を譲渡する際には、会社の承認を得る必要があります。この承認プロセスを記録した議事録は、誰から誰に、何株譲渡されたかを明確に示す重要な社内資料です。

M&A後の株主トラブルを避けるための対応策

これらの資料を通じて株主の状況を把握したとしても、全ての不確実性を排除できるわけではありません。そのため、M&A契約書には、将来的な株主に関する紛争リスクに備えるための条項を盛り込むことが不可欠です。

  • 表明保証 売り手に対し、「株主名簿に記載された人物が真の株主であり、他には株主が存在しないこと」などを表明保証させます。もしこれが事実と異なっていた場合、売り手がその責任を負うことになります。
  • 補償条項 表明保証違反によって買い手が被った損害を、売り手が補償することを定めます。これにより、万が一の事態に備えることができます。
  • デューデリジェンスの範囲と深度 M&Aの規模やリスクに応じて、どこまで調査を行うかを事前に明確に定めておくことが重要です。


労務:見過ごされがちな潜在リスク「ヒト」の問題

法務面のリスクがクリアできたとしても、次に待ち受けるのは「ヒト」に関する問題、すなわち労務リスクです。買収後に従業員との間でトラブルが起こったり、隠れたコストが発覚したりすると、M&Aの経済的効果を大きく損ないかねません。

未払い残業代:潜在的な負債

未払い残業代は、多くの日本企業に潜在的に存在する問題です。労働基準監督署の調査や、従業員が弁護士を通じて請求を行った場合、過去2年間に遡って支払いを命じられる可能性があります。これにより、M&A後に予期せぬ人件費負担が発生し、事業計画が狂ってしまうリスクがあります。

具体的なリスクとチェックポイント

  • 法定書類の不備 労働基準法では、従業員に時間外労働をさせる場合、就業規則への記載と、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)の締結・届出が義務付けられています。これらの書類が適切に整備されていない場合、残業自体が違法状態となります。

  • 賃金管理の杜撰さ タイムカードや勤怠管理システムが存在しない、あるいは従業員の自己申告制で実態を反映していないケースがあります。実際の労働時間が把握できていないと、未払い残業代がどのくらいあるか見積もることも困難です。

  • みなし残業制度の不適切な運用 「みなし残業代」は、一定時間分の残業代を固定で支払う制度ですが、実際の残業時間がみなし残業時間を超えた場合、その超過分を追加で支払う義務があります。この追加分の支払いが適切に行われていないケースが散見されます。

事例(実話)コーナー

【実例(実話)】

この従業員は、そんな問題提起はしないだろう。

根拠のない「大丈夫だろう」はとても危険です。長年経営者として教室業務を行っていますので、従業員トラブルがゼロではありません。15年間で2回です。当然いずれも即時解決しています。
即時解決出来た一番の理由は何かと言えば、

「就業規則」です。初期段階の就業規則から、少しずつブラッシュアップして今の就業規則に至のですが、これのお陰で2回とも従業員の言い分がストレートに通ることはなく、リサーチの結果、10分の1ぐらいまで一気にダウンしています。うち一件は、ほぼゼロに限りなく近い状態まで私たちの言い分が認められました。

その2回の経験があり、就業規則はとても大切なものだということがよくわかりました。

ちなみに、残業における規定ももちろん記載しています。
しかし、私どもの残業に関しての規定は、一風変わっています。変わっており、尚且つ整合性が取れていて、しかも非の打ちどころはないと自負しております。

労務管理は非常に重要です。

CROSS M&Aとのお取引をご決断頂いた方には、このような情報も余すところなく提供いたします。

M&Aを検討している方とか、買収検討の方、または譲渡検討のい方、これから新規開校を考えている方、新しく会社をつくろうとしている方、従業員を雇おうと考えている方は是非ご検討ください。


買収後の対策

買収が完了したら、速やかに勤怠管理システムを導入し、適正な労働時間管理体制を構築する必要があります。また、未払い残業代の潜在的なリスクを評価し、必要に応じて専門家(社会保険労務士など)のアドバイスを受けることが重要です。

社会保険未加入:見過ごせないコンプライアンス違反

日本では、従業員が1人でもいれば、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務があります。しかし、中小企業の中には、保険料負担を避けるために意図的に加入していないケースが存在します。

具体的なリスク

  • 遡及納付のリスク 労働基準監督署や日本年金機構の調査により未加入が発覚した場合、過去2年間に遡って保険料の支払いを命じられます。この費用は本来、会社と従業員で折半しますが、従業員への請求は現実的に難しいため、多くの場合、会社が全額負担することになります。

  • 事業運営上のリスク 人材派遣業や建設業など、業種によっては社会保険加入が許認可の要件となっています。未加入が判明すると、許認可が取り消され、事業継続が困難になる可能性があります。

  • 損害賠償請求のリスク 本来なら加入していれば受けられたはずの年金が受給できないことについて、従業員やその遺族から会社に対し、損害賠償請求をされる可能性もあります。

チェックポイント

  • 決算書の確認 損益計算書(PL)の法定福利費をチェックします。人件費の概ね15%程度が計上されていれば、社会保険に加入している可能性が高いです。
  • 給与明細の確認: 従業員の給与明細で、社会保険料が天引きされているかを確認します。
  • 経営者へのヒアリング: 売り手企業の社長に直接、加入状況を尋ねることも有効な手段です。

オーナー社長の気持ちは、オーナー社長経験がなければ絶対にわかりません。
雇われの社長、フランチャイズ本部のSVなどが、この、毎日刺されるぐらいに苦しい気持ちを同じように理解など出来るはずがありません。

気持ちの痛み、苦しい叫び、不安で押しつぶされそうな思い、、、そんな数多くのソウルをひた隠しに隠しながら、何とか気丈に振舞い、日々生きるか死ぬかの戦いをしているオーナーの気持ち・・・

「社長のお気持、よくわかります」
もし、サラリーをもらっている人がその言葉を発したら、それは嘘です。
わかるはずなどないからです。


従って、この社会保険についても未加入があるかもしれない・・そんなことは教科書額面通りじゃなくてもわかるのです。
わかるがゆえに、このように偉そうに書くこと自体も憚れるのですが、M&Aのことを語るばあいには、避けて通れませんし、負の内容についても書きながら自分自身を振り返るようにしておりますので、どうかお許しください。

★社会保険とか労働関連のこれらのものは形を変えた税金と一緒

です。
払わないといけないお金です。

毎月、指定口座からごっそり引かれるお金が法定福利費。
そして、予定納税含めて、ごっそり支払わなくてはいけない消費税。

納める場所は違えども、どちらも意味合いとして総合的に見て「税金」です。一緒に考えないよ・・・という人がいれば、それはそれでいいですが、
結局一緒です。
身銭を切っているオーナー社長は、この点、形は違えども・・と同意頂けるのではないでしょうか。



財務・税務:数字の裏に隠された真実を見抜く

財務と税務に関するデューデリジェンスは、M&Aの価格交渉や買収後の事業計画策定において中核をなすプロセスです。決算書に記載された数字が「真実」を表しているか、また将来的な追加コストにつながるリスクがないかを徹底的に検証します。

財務デューデリジェンス:資産と負債の実態把握

資産の確認:実在性と適正価値の検証

買収価格は主に資産の価値に基づいて算出されるため、その実在性と適正価値を評価することは不可欠です。

以下の項目では、たくさん文字色を「赤」に変更してありますが、重要度がそれだけ高いと認識ください。


  • 現預金 決算書の金額と実際の残高が一致しない「簿外現金」のリスクがあります。小売業の事例のように、経営者の個人流用や不明な使途で現金が減少していることがあります。多額の現金残高がある場合は、現物確認や現金出納帳のチェックが必須です。
  • 売上債権 架空の売上計上や、回収不能な不良債権が計上されているリスクがあります。特に、建設業のように工事の進行度合いで売上計上する業種では、決算を良く見せるための粉飾が行われやすい傾向にあります。
    • チェックポイント: 売上債権の内訳書を複数期分レビューし、同額の債権が滞留していないかを確認します。また、売上債権回転期間を算出し、会社の回収条件と比較することで、滞留債権の有無を判断します。
  • 棚卸資産 長期間売れ残っている陳腐化した在庫や、そもそも存在しない架空在庫が計上されているリスクがあります。これは、売上原価を圧縮し、利益を水増しする粉飾の手口としてよく使われます。
    • チェックポイント: 棚卸資産の内訳書を複数期分レビューし、滞留在庫がないかを確認します。また、在庫の管理方針(棚卸しの頻度、廃棄ルールなど)をヒアリングし、実態を把握します。
  • 固定資産 特に不動産や設備は、決算書の簿価と実際の市場価値が大きく乖離していることがあります。減価償却が適切に行われていないケースや、バブル期に高値で購入した土地の簿価がそのまま計上されているケースなどがあります。
    • チェックポイント: 固定資産台帳で取得年月日を確認し、資産の古さを把握します。不動産の時価については、路線価や不動産鑑定評価などを活用して、適正な価値を算出することが重要です。
  • 保険積立金 経営者の節税対策として生命保険に加入している場合、解約返戻金の金額と決算書の金額が乖離していることがあります。解約返戻金の金額は、将来的に現金化できる資産であるため、正確に把握する必要があります。

負債の確認:網羅性と潜在的負債の検証

決算書に記載されていない「簿外負債」や、将来的に顕在化する可能性のある負債を特定します。

  • 仕入債務・未払金 請求書や契約書をレビューし、費用が適切な期間に計上されているかを確認します。例えば、請求書が届いたタイミングで費用計上し、本来の発生日を無視していると、適切な会計処理がなされていないことになります。
  • 前受金 エステや学習塾のように、事前に代金を受け取ってからサービスを提供するビジネスの場合、収益認識が適切に行われているかを確認します。一括で売上計上し、前受金として負債計上していないと、将来の売上が水増しされ、M&A後の業績が悪化するリスクがあります。
  • 退職給付引当金 従業員が多い会社の場合、退職金制度の有無を確認し、もし制度があれば、現時点で全員が退職した場合に必要となる退職金債務の金額を算定する必要があります。多額の潜在的負債となる可能性があるため、特に注意が必要です。

税務デューデリジェンス:過去の税務処理に潜むリスク

税務デューデリジェンスでは、過去の税務処理が税法に準拠しているかを検証し、将来的に税務調査が入った場合に追徴課税されるリスクがないかを確認します。

  • 関連当事者取引 親族や関連会社との間で、市場価格とかけ離れた価格で取引が行われている場合、税務署から否認され、追徴課税されるリスクがあります。
  • 役員退職金 過去に支払われた役員退職金が、一般常識から見て高額すぎると、一部が損金として認められず、法人税が追加で課税される可能性があります。
  • 過去の組織再編 過去に合併や会社分割などの組織再編を行っている場合、その税務処理が適切に行われたかを確認する必要があります。「非適格再編」と判定されると、思わぬ多額の税金が発生することがあります。
  • 費用の資産計上漏れ M&Aのアドバイザー費用や、ソフトウェア開発費など、本来は資産として計上すべき費用が、誤って損金処理されている場合があります。これも税務調査で否認され、追徴課税のリスクにつながります。

税務リスクのチェックポイント

  • 税務調査の履歴 直近で税務調査が行われている会社は、過去のリスクが洗い出されているため、比較的安心できます。一方、10年以上調査が入っていない会社は、潜在的なリスクが蓄積している可能性が高いと判断できます。
  • 顧問税理士の関与状況 毎月訪問して会社の会計処理を細かく見てもらっている場合と、年に一度決算書を作成するだけの場合とでは、リスクの度合いが大きく異なります。顧問税理士の関与度合いは、会社のコンプライアンス意識を測る重要な指標となります。

M&Aは、これらの潜在的なリスクを事前に特定し、適切に評価・対処することで、初めて成功へと導くことができます。専門家と連携し、徹底したデューデリジェンスを行うことが、M&Aを検討する上で最も重要なプロセスです。

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